いちどくをこの本『STAP細胞に群がった悪いヤツら』(NEWS No.483 p07)

『STAP細胞に群がった悪いヤツら』
小畑峰太郎 著
新潮社 1300円+税
2014年11月27日刊行

STAP細胞は単なるねつ造問題ではありません。
この論文の背景には、再生医療を国の基幹産業とする政策からの圧力があります。
「STAP細胞」事件にとどまらず、東大や京大を先頭に、発覚してきた様々なデータねつ造と根を同じとするものです。
「STAP細胞」に先駆けて、小保方晴子氏の母校早稲田大学理工学部では、当時文科省の委員を歴任し、予算に介入できる立場だった教授がねつ造論文で騙し取った研究費を自分の口座にプールした事件も起こっています。

この本は、STAP細胞問題を扱った他の本と違い、「小保方騒動」はその背後にある政府の「先端技術」開発のあくどさをごまかすための目くらましに過ぎないことを詳しく展開しています。

「STAP細胞」論文共著者で早稲田大学時代から小保方氏を指導していた東京女子医大大和雅之氏は、日本の再生医療を主導する東京女子医大・早稲田大学連携先端生命研究教育施設長岡野光夫氏と師弟関係であり、小保方氏を理研に送り込んだ人物です。
この岡野氏は再生医療のベンチャー企業「セルシード社社外取締役」であり、STAP細胞「開発」をネタに、2013年に傾きかけていたセルシード社の破綻を逃げ切ったともいわれています。

自殺した理研「発生・再生科学総合研究センター」副所長の笹井芳樹氏は、ES細胞の第一線研究者として、理研で国からの47億円もの研究費をまかされ、ノーベル賞受者の山中伸弥氏と並ぶ評価を受けていました。
理研全体としても、その予算は800億円を超えています。しかも「最先端研究開発分野の1000億円に上る予算配分は、理研理事をはじめ、「セルシード」の岡野氏などが決めているとのことです。

先端技術開発を推し進める文科省は、基礎研究から医療の実用までのタイムラグが多すぎるとして、その研究の加速化を狙い厚労相管轄であった「臨床試験」の承認問題にまで介入し、2012年より「人体実験」の規制緩和をはかる五カ年計画を開始しています。
当然、臨床試験の危険性が一層高くなります。そのために、iPS細胞の臨床試験を進める理研CDB高橋医師が「(文科省の)臨床試験から(薬事法の)治験に切り替える」言ったのだと、著者は書いています。

このような政策の基は、安倍内閣の「日本再興戦略」の具体法「健康・医療戦略推進法案」(2014年5月成立)の、「世界最高水準の医療の提供に資する医療分野の研究開発に関する施策」など4つの柱に具体的に示されています。
しかし、iPS細胞などの研究は医療として実用化する段階ではなく、患者に利益をもたらすのはいつになるのかわからないものです。
にもかかわらず、湯水のように研究費を出すのは、無駄な道路やダム建設に「公共投資」したことダブります。
これが「研究」関連企業の金儲けのためならねつ造もいとわないとの堕落をもたらしていると、この本は示してくれます。

はやし小児科 林