臨床薬理研・懇話会11月例会報告(NEWS No.484 p02)

Ⅰ.シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」 第9回
「抗がん剤の臨床評価 (1)」

固形腫瘍の抗がん剤について、高価にかかわらずその効果はわずかで重篤な害作用が多いとはよく言われます。実際の例にあたってみることにしました。血管新生と腫瘍の成長に関与するチロシンキナーゼを阻害するレゴラフェニブ(スチバーガ)の、進行した消化管間質腫瘍(GIST)の適応追加の根拠となった GRID trial 論文です(Demetri GD et al. Lancet 2013; 381, 295-302)。なおデータは欧州医薬品庁の情報公開で補足しています。
GISTに有効な医薬品はイマチニブ、スニチニブのみ。しかしほぼ全例の転移性GISTが抵抗性を生じ、致死性病勢進行に至ります。今回の論文はイマチニブ、スニチニブが失敗した後進行する転移性ないし外科手術が可能でないGIST患者での有効性安全性の評価、という厳しい条件での第Ⅲ相試験です。ダナファーバー癌研究所など日本を含む17か国、57病院が参加し、バイエルが支援しています。組織学的に確認したGIST患者を2対1の比率で実薬、プラセボに割り付け(ブロックサイズは12)、各4週サイクルの最初の3週間、ベストサポーティブケア+経口レゴラフェニブ(R)1日160mg またはプラセボ(P)を投与、プライマリーエンドポイントは全生存(overall survival: OS)でなく、 最近頻用される無増悪生存(progression-free survival, PFS)です。遮蔽は病勢進行、受容できない害作用の発生、患者の臨床研究からの脱退まで持続して保持、病勢進行があればプラセボに割り付けられた患者はオープンラベルのレゴラフェニブにクロスオーバーできるデザインで、解析はITT(intention to treat, 治療意図の原理による解析)です。
結果(R133例、P66例)は、レゴラフェニブがプラセボと比較し、画像判断でPFSを約4か月有意に延長しています(PFS中間値はR4.8か月、四分位範囲IQR 1.4-9.2、P0.9か月、IQR0.9-1.8、ハザード比は 0.27、 95%CI 0.19-0.39、p<0.0001)。病勢進行後にプラセボに割り付けられた56患者(85%)がレゴラフェニブにクロスオーバーしました。害作用はレゴラフェニブ 130患者(98%)、プラセボ45患者(68%)、グレード3以上の害作用はレゴラフェニブ 81患者(61%)、プラセボ 9患者(14%)です。これらは手掌足底紅斑感覚障害、高血圧などですが、投与中止に至った害作用のデータは示されていません。医師がレゴラフェニブに原因を帰した3死亡は 心停止、急性肝不全、窒素血・代謝性アシドーシスです。著者たちは、この成績は高度の治療抵抗性患者におけるキナーゼインヒビターの有用性を示した最初の臨床試験としています。
プレスクリル誌は、PFSの判断のもととなる画像は、患者の臨床状態よりも早く悪化する。患者や医療専門家は画像についての効果はわかっても、疾患自体についての効果は知ることができない。そして画像が悪化すれば病勢進行として、プラセボは実薬投与に変更される。17週後患者の半分は死亡し、両群に差はみられなかった。これでは効果の差や安全性(害作用)は評価できないとコメントしています。総合評価は、画像の改善がみられたが大きな害作用が存在するため、受け入れがたいとしています。
今回のGISTを対象とした試験の主要エンドポイントはPFSですが、調べると最初に承認された結腸直腸がんの同様の試験ではOSで評価されていることがわかり、次回はその文献(CORRECT trial, Lancet 2013; 381, 303-12)を取り上げることにしました。
薬剤師 寺岡