「適性評価」は人権侵害―秘密保護法は戦争法ともども廃止するしかない(NEWS No.485 p05)

2015年12月1日に完全施行された特定秘密保護法(以下、秘密保護法)に基づき、機密を扱う公務員らの身辺を調べる「適性評価」を防衛、外務両省の職員ら計25人拒否したことが報じられた。


「適性評価」に対しては、当初からプライバシーの侵害が強く懸念されていた。

「適性評価」とは情報漏洩防止を目的に、公務員らが特定秘密を扱える人物かどうかを判断するための身辺調査をいう。
政府機関の契約先である軍需産業などの民間企業の従業員も対象となる。
調査内容はテロリズムとの関係から犯罪歴、精神疾患、飲酒の程度、借金などの経済状況、海外への渡航歴など多岐にわたる。
調査される側が強い抵抗感を示すのは当然理解しうる。
「適性調査」の範囲は事実婚の相手を含めた家族にも及び、氏名や生年月日、国籍などもチェックする。
個人情報を警察など他の政府機関や自治体、医療機関に照会することもできる。
既に10行政機関が照会しているという。

精神疾患の項目では過去10年以内の治療やカウンセリングの受診実績、担当医師名までも求められる。
日本精神神経学会は2015年3月15日に「適性評価」に反対する見解を発表。
同年の同学会学術総会でも「適性評価」に反対する趣旨のシンポジウムを開催。
反対理由は以下の3点。

  1. 精神疾患、精神障害に対する偏見、差別を助長し、患者、精神障害者が安心して医療・福祉を受ける基本的人権を侵害する。
  2. 医療情報の提供義務は、医学・医療の根本原則(守秘義務)を破壊する。
  3. 精神科医療全体が特定秘密保護法の監視対象になる危険性が高い。

いずれも当然の主張である。
シンポジウムの議論では、精神科医の職業倫理として「適性評価」への協力を拒否するための戦術を検討していくことを確認した。

当事者が秘密を知られたくないという人権保護の観点からも、治療者の守秘義務や臨床実践上の当事者との信頼関係を基盤とする治療関係構築の観点からも、個人の極めて核心的な部分に容赦なく踏み込む調査の在り方は、人権主義の憲法に反し、精神障害者をあからさまに差別して治療関係を破壊するものであって、断じて許すことはできない。

「適性評価」では思想信条や適法な政治活動、市民活動、労働組合活動などの調査はできず、収集した情報の目的外利用も禁じているが、一方で調査が適法かどうかの判断は行政機関に委ねられる。
調査対象者が拒否すれば調査は実施されないが、拒否すれば職場で配置転換や業務変更を迫られる可能性もある。
大阪市の入墨調査では調査拒否者が不当配転などの不利益を被っている。
不本意ながら調査に応じてもし「不適格」と評価されればその後大きな不利益を被ることになるが、不適格の理由は明らかにされない。

民主主義の根幹である国民の知る権利を制約する秘密保護法は、日本が海外で戦争するための戦争法を情報統制の点で補完するものであり、戦争法ともども廃止するしかない。

いわくら病院 梅田