いちどくをこの本『子どもに貧困を 押しつける国・日本』(NEWS No.485 p07)

『子どもに貧困を押しつける国・日本』
山野良一 著
光文社新書 820円+税
2014年10月15日刊行

保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査する「国民生活基礎調査」は1986年を初年として、所得については、3年毎の大規模調査(約4万世帯、約9万人)と中間の各年には簡易調査(約1万3千世帯、約3万3千人)を行っている。
この調査に基づいて、調査対象全体と子どもの相対的貧困率は算出されていたが、2009年10月に初めて「厚生労働大臣のご指示により」(厚労省HP)公表され、1997年より3年毎の相対的貧困率が明らかにされた。

2006年7月すでに、経済協力開発機構(OECD・34ヶ国)が、日本の相対的貧困率はアメリカに次いで「第2位」と報告しており、母親が働いている母子世帯の貧困率が突出して高いことを指摘していたにもかかわらず、日本政府は一般国民に情報提供することはなかった。

著者が2008年に上梓された「子どもの最貧国・日本―学力・心身・社会におよぶ諸影響」は医問研ニュース第407号(’09年7月発行)で紹介している。
その後、あしなが育英会や「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークなどの市民運動の力によって、’13年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(子どもの貧困対策法)が議員立法で成立した。

この法律に基づき’14年8月に「子どもの貧困対策に関する大綱」が閣議決定されているが、決定直前の7月に公表されていた、「日本の子どもの6人に1人が貧困」と言える過去最悪の相対的貧困率の低減など、具体的な数値目標や財政上の措置は講じられていなかった。
この経過は’福島原発事故の被災者支援を目的として12年6月に、同じく議員立法で理念法として成立した「子ども・被災者支援法」を思いださせる。

‘14年10月発行のこの書物の題名に初めて接した時、著者の怒りが込められているように感じた。
経済学を学んだ後の児童相談所勤務(児童福祉司)、米国でのソーシャルワークの学びと児童保護局勤務の経験、’10年の「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークの立ち上げに参画し、その後は世話人として、辛い子どもたちに関わり続ける中から湧き出る怒りのように思える。

本書の構成は以下のようである。

第1章 今なお日本は「子どもの貧困」大国
・・・子どもの相対的貧困率の現状から、子どもを抱える低所得世帯の経済的困難や金銭的な公的支援の課題点を見る

第2章 最低の保育・教育予算、最高の学費

・・・日本の場合、家族に対する経済的支援に加え、教育・保育サービスも不十分であることを示す

第3章 報じられた子どもの貧困問題

・・・「無保険の子供」や「消えた子供」、児童養護施設や生活保護など、マスコミで取り上げられた子どもの貧困に関するトピックスの問題点を考える

第4章 家族依存社会の生きづらさ

・・・経済的困窮状況に置かれた子どものしんどさや、子どもの貧困が拡大する社会全体の変容についての理論的考察

第5章 貧困対策とコストパフォーマンス
・・・子どもの貧困対策法の成立過程や問題点について整理。
貧困対策の社会投資的な視点について言及。
子どもの貧困解決のための先駆的地域活動の紹介「怒り」を共有するためにも読んで頂きたい。

小児科医 伊集院