医療トピックス 2,北茨城市での甲状腺がんの異常多発―福島県外の甲状腺検査、検診が重要(NEWS No.486 p06)

昨年8月26日、茨城県北茨城市から、平成25年度・26年度甲状腺超音波検査実績が発表されました。北茨城市は福島県いわき市の南に隣接する位置にあり、県境を越えた原発事故被害を示す事例として重要な意味をもっています。
原発事故を受け、福島県では国が甲状腺検査をしたが、隣接する北茨城市では実施されなかったため、親から要望を受けた市が独自に検査したものです。結果は表1です。

北茨城市・平成25年度・26年度甲状腺超音波検査実績

年度事故当時年齢対象者数受診者数受診率甲状腺がん患者数
平成25年度0歳-4歳1548118476.50%0
平成26年度0歳-18歳6151359358.40%3

2014年度の対象は、18歳以下の計6151人のうち希望した3593人が受け、甲状腺がんが3名発見されています。医師と専門家で構成する「甲状腺超音波検査事業検討協議会」は放射線量や事故後の経過年数などから福島原発事故による放射線の影響とは考えにくいとコメントをだしています。
本当にそうでしょうか?
今回、ポアソン分布に基づく95%信頼区間を、Geigy社のポアソン分布表(Lentner 1982)に基づ いて、岡山大学津田敏秀氏の著者-岩波科学の2013年5月号の式を参考に検討してみました。
結果は、「全国発生率と比較して24倍の多発である。この多発は、むこう20年間を考えても統計的に意味ある多発である」と言えます。
具体的には、すなわち、国立がん研究センタ-の全国年間発生率(0-19歳-5人/100万人)と比較します。

表2(発生率比-感度分析)

平均有病期間点推定値95%信頼区間
下限上限
4年24.395.0371.27
10年9.752.0128.51
15年6.501.3419.00
20年4.881.0114.25

図1(甲状腺がんの発生率比の検討)

平均有病期間を1年から20年で検討してみます。結果は、表2(発生率比-感度分析)、図1(甲状腺がんの発生率比の検討)です。
今回の検討では、2014年度の検査対象者6151人に対して、甲状腺がん3名が発生したとして計算しています。すなわち、受診者3593人、未受診者2558人ですが、この未受診者が今後受診した際に全員にがんが発見されないと、甲状腺がんの発見率を実際より過小に仮定して計算しています。
それでも、明瞭な異常多発と言えます。放射線被ばくは県境で止まるものではないことが改めて確認されます。福島県外の県民の健康被害を検証する健診が必要なことを強く示しています。

たかまつこどもクリニック 高松勇