くすりのコラム 美容と薬(NEWS No.486 p08)

人工的な「若さ」を手に入れるための美容品や薬が多く販売されるようになりました。
テレビでは美男美女として幼い顔がもてはやされるようになりました。
日本社会全体のネオテニー化が進行しているのかもしれません。
ネオテニーとは幼形成熟ともいい、幼生・幼体の特徴をもったまま性的に成熟し繁殖することを指します。
人工的なネオテニー化技術は日進月歩しており、男性のヒゲ脱毛というものも驚くことでもなくなりました。
さて、こんな美味しい「美容」市場を製薬メーカーが放っておくわけがありません。
続々と医療医薬品の副反応、副次的作用を利用した商品が出回ってきました。

アラガン/塩野義製薬から「睫毛貧毛症」のための医療用まつ毛育毛剤「グラッシュビスタ®」の案内が薬局に届きました。
最近は睫毛にマスカラやエクステなどを施し少しでも睫毛を長く濃く見せる化粧が流行しています。
睫毛は年齢とともに薄くなってしまうため、若い人だけでなく世代を問わない悩みです。
この薬は緑内障に使用するプロスタグランジン系の点眼薬ビマプロストでおこる、睫毛が太く濃く生えてくる副反応を利用したものです。
目の周りに点眼液がつくと色素沈着が起きるため点眼後の清拭または洗顔が必要です。
しかし睫毛用パンフには色素沈着について酷い例を写真に出さず、軽くアイシャドウを塗ったように見える程度の写真で説明しています。
美容目的に使用する場合刷毛でうすく睫毛に塗るようですが、上手に塗らないと変な生え方になるかもしれません。
1本5ml入りで1万円ほどし、塗り続けなければもとの「睫毛貧毛症」に戻ってしまいます。

GSK(グラクソ・スミスクライン)から海外では男性型脱毛症薬として以前から使用されていた前立腺肥大症の薬がその効用で売り出されました。
5α 還元酵素 1 型/2 型阻害薬 「ザガーロ®カプセル 」は「男性における男性型脱毛症」の効能・効果で承認取得しました。
HPでは 男性型脱毛症について 次のように紹介しています。
男性型脱毛症は、思春期以降に始まり徐々に進行する、男性においてもっともよくみられる脱毛の 病型で、前頭部と頭頂部の毛髪が軟毛化して細く短くなり、最終的には額の生え際が後退し頭頂部の毛髪がなくなることが特徴です。
生命に影響を及ぼす疾患ではありませんが、外見上の印象を大きく左右するため、薄毛に悩む男 性の心理的ストレスは強く、多くの患者さんが治療を望んでいます。
男性型脱毛症は病型や疾患と明記されていることに違和感を覚えます。
果たして、本来病気ではない男性型脱毛症の人に性機能不全(リビドー減退、勃起不全、射精障害)の有害作用を十分に説明して商品を売ることができるのでしょうか?美容用商品を使用することでその有害作用によって新たな悩みが生まれるかもしれません。

薬剤師 小林