溶連菌感染症後の尿検査の意義(NEWS No.487 p06)

A群溶血性連鎖球菌(以下溶連菌と略します。)感染による咽頭扁桃炎と診断された時、数週間後に尿検査をするから受診してね、といわれた経験がある方が多いと思われます。しかし、その尿検査で実際に異常があった方はとても少ないのではないでしょうか。何故尿検査をするのか、また、その臨床的意義について書かせていただきます。

1.尿検査は何故するのか。

溶連菌感染後の1−4週後に発症する合併症、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(acute poststreptococcal glomerulonephritis、 以下APSGN)をスクリーニングするためです。溶連菌咽頭扁桃炎のAPSGNの発症率は、一般的に症候性は2%未満であるとされております。

2.APSGNはどんな病気か。

溶連菌の菌体成分に対する免疫複合体が腎臓に沈着して発症すると考えられています。
溶連菌の先行感染があり、尿検査で蛋白尿または血尿を認め、かつ血液検査で補体の一過性の低下があるものを診断します。
症状は、浮腫、血尿、高血圧があり、稀に急性腎不全や急激な血圧上昇による脳症をおこすことがあります。
しかし、小児では92-99%以上が、腎機能障害を残さないか、あっても極わずかであり、予後良好の疾患として知られています。
咽頭扁桃炎だけでなく、溶連菌感染による他の上気道感染や皮膚感染(‘とびひ’)の後にも発症します。
抗生剤内服による予防効果は認められておらず、また、早期発見時の進展予防効果のある治療もありません。

3. 全例尿検査の意義。

2007年の東京でのアンケート調査で医師52名中47名が全例に行っているとの報告からも、現在、本邦のほとんどで行われていると思われます。
しかし、発症期間の幅が広いが1回の尿検査でしかみないという矛盾があります。
そこから、本邦でもいくつかの研究がなされており、1回の尿検査は症候性の早期発見にはつながらなかったとされております(北海道の報告:185例の溶連菌扁桃炎と診断された児を1−4週間後の1回の尿検査でフォロー、入院加療が必要なAPSGNは0例で、3例が無症候性の可能性があったが、自宅での経過観察で尿所見は正常化した。長野での報告:159例の児を10-44日後の1回の尿検査でフォローしAPSGNはいなかった)。かといって、頻回の尿検査は発症率が低いことから、利益の得られない患者が圧倒的に多く、負担が大きすぎます。結局のところ、尿検査の意義は、そういった合併症があるため、よく観察してくださいという注意喚起であるといえるのではないでしょうか。そして、とびひや溶連菌による上気道感染でもおこる合併症であり、それらの疾患時にも発症の可能性と症状について説明することが大切でしょう。

小児科医 房安

参考文献:
1) J Am Soc Nephrol. 2008;19(10):1855
2) 日児腎誌 2007; 20(2): 105-110
3) 小児科臨床 2010; 63(10): 2151-2155
4) 小児診療 2013; 76(5): 863-866