いちどくを この本『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(NEWS No.487 p07)

『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』
藤田孝典:著
朝日新書 760円+税
2015年6月12日刊行

下流老人とは、一億総老後崩壊を生み出す危険性がいまの日本にはあると警鐘する、著者による造語だ。下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者及びその恐れがある高齢者」と定義する。下流老人には次の3つが「ない」。①収入が著しく少「ない」。②十分な貯蓄が「ない」。③頼れる人間がい「ない」(社会的孤立)。言い換えれば「あらゆるセーフティネットを失った状態」である。

高齢になるほど働けないケースが増える。収入はおもに年金だけとなるが、年金が少ないと、蓄えを取り崩して、あっという間に貯蓄が減っていく。現状では国民年金は平均約5万円、厚生年金は約14万円。高齢者の約20%が貯蓄ゼロ世帯だ。このままだと高齢者の9割が貧困化し、貧困に苦しむ若者も増える。年収400万円の人でも、将来、生活保護レベルの生活になる恐れがある。生活保護を受給する高齢者は増加中で、2015年3月時点で65歳以上の78万6634世帯(受給世帯の約48%)が生活保護受給中だ。本書では現在推定600万~700万人はいるだろう下流老人の実情と社会的背景、自己防衛策まで展開されている。

下流老人による社会への悪影響を4つ挙げている。Ⅰ)親世代と子ども世代が共倒れする。Ⅱ)高齢者が邪魔者扱いされる。Ⅲ)若者が自分の将来や老後に希望が持てなくなり、若者世代の消費が低迷する。Ⅳ) 子どもをつくって家庭をもつことはリスクになるので、間接的に少子化を加速させる。下流老人の問題は全世代の問題ということがよくわかる。

著者は、高齢者が貧困に陥るパターンを5つに大別した。1)本人の病気や事故により高額な医療費がかかる。2)高齢者介護施設に入居できない。施設が少なく費用も高額だ。3)子どもがワーキングプアや引きこもりで親に寄りかかる。4)熟年離婚。5)認知症でも周りに頼れる家族がいない。そして高齢者の貧困は死に直結するのが恐ろしいところだ。

下流老人を生み出すのは国であり、社会システムである。著者は現在の社会システムに、収入面(年金制度)、貯蓄・資産面、医療、介護保険、住宅、関係性・つながりの構築、生活保護、労働・就労支援の分野での8つの不備を指摘する。一言でいうとセーフティネットの不備だ。子どもの貧困(2012年で16.3%)、働く世代の貧困(日本の相対貧困率は2012年で16.1%)は世代を連鎖して高齢者の貧困につながる。所得を再分配して生活保障を手厚くする必要がある。生活保護を受けやすくする、住いの貧困をなくすこと、さらには最低限の老後の生活資金を保障するシステムも必要だ。教育、福祉、介護といった異なる分野の連携なくして本質的な解決は見込めない。

著者はNPO法人代表理事で反貧困ネットワーク埼玉代表として生活困窮者全般からの相談を受けている。生存や尊厳にかかわる凄絶な相談や支援の体験をもとに、当面の自己防衛策にとどまらず、社会システムの改革の方向性も示している。是非一読を。

いわくら病院  梅田