福島県民健康調査 妊産婦に関する調査「先天奇形・異常の有無」の分析(NEWS No.488 p06)

原発事故のあった福島県での県民健康調査で、子どもの甲状腺がんの異常多発が明確になった。一方、この調査の中の「妊産婦における調査」においても、チェルノブイリでみられた胎児への影響が同じようにみられている。平成26年12月の第17回「県民健康調査」検討委員会で、事故後3年間の妊娠・分娩について郵送による調査票の集計が報告された。
この集計結果を分析した。表1に各年度の回答数と回答率を示す。

表1

この有効回答のうち、12週以降の単胎(一人)の「先天奇形・異常」(先天性形態異常)について、年度毎の有効回答数と「異常あり」の実数から得られる発生率を表2に示す。

表2

これらから事故後3年間の「異常あり」総数は558件、有効回答総数は21899件であり、発生率は2.55%となる。「異常あり」が3年間にランダムに起こる事象として、ポアソン分布に基づいて95%信頼区間(CI)を推定すると512~603件となり、発生率の範囲は2.34~2.76%で、事故前2010年の全国平均発生率2.31%が、この範囲にはいる可能性は5%以下となり、数字の分析では明らかな上昇を示している。検討委員会の「一般的な発生率(3~5%)とほぼ同様であった」との公式見解は、科学的に意味のあるものではない。

次に形態異常の種類について検討を試みた。報告では、主なものが項目にまとめられ、まれなものは「その他」に列記されている。項目のうち、表3に示すものについて3年間の総数を分析した。

表3

それぞれについて、発生率(対1万児)とポアソン分布に基づいて95%信頼区間を推計し、表4に示す。平均は日本産婦人科医会全国モニタリングでの、1997~2005年間の801,276児における発生頻度である。全国平均に対し、多指・合指症、口唇口蓋裂が増加、鎖肛・ダウン症候群・二分脊椎は不変、水頭症は減少していた。

表4

多指・合指症の増加は、チェルノブイリ事故後のベラルーシでの著しい増加が、四肢欠損など外表性形態異常とともに報告されている。
「その他」の記載を見ると、年度が経つに従い「上肢欠損」「四肢短縮症」などが現れてくる。外表性のうち股関節脱臼など分娩時障害と考えられるものを除き、形成不全、変形、欠損など胎生時の発生に関わるものについて抽出した。指の欠損、先天性反張膝、両上肢欠損、四肢短縮症、短指症など極めてまれな「四肢の異常」が直線的に増加している。染色体異常であるダウン症候群に変化はみられない。ダウン症候群を除いた内反足、裂手、四肢の異常をまとめた外表性形態異常をみると、絶対数の増加とともに形態の多様化が著しい。

図1

これらから、原発事故による放射能汚染が、福島において感受性の著しく高い胎児に影響を与えていない、と否定することはできないだろう。
一方、チェルノブイリではヤブロコフ(2009)にも四肢、外表性の形態異常の報告例が示されている(写真1)。これらの特徴は、頭部や体幹など中心部のほとんどが正常であるにもかかわらず、四肢の変形、形成不全、欠損が著しいことである。

写真1

このような特徴は、ベラルーシのLazjukらによる形態異常の疫学調査においても証明されている。
ベラルーシでは、事故前の1979年に先天異常の登録制度が開始され、医療費無料、公的分娩施設の下で、遺伝的理由による人口中絶への剖検と登録が義務付けられていた。この制度により、事故による放射能汚染の前後の比較が可能となっている。表5は、事故前(1974-1985)に対する事故後(1987-1994)の倍率で、多指症、四肢欠損、多発奇形の上昇が著しい。

これらと同様の傾向を示す福島の現状は、放射線への胎児の高い感受性を示唆するものと考えられる。さらに厳密な発生異常モニタリングと女性、妊婦への放射線防護対策の強化が望まれる。

参考文献:

  1. 福島県民健康調査第17回検討委員会報告書
  2. Fukushima J.Med.Sci.2014.60(1)
  3. 日産婦誌 2007.59(9)
  4. Lazjuk GI Stem Cells 1997;Supp12

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