くすりのコラム 新規機序抗悪性腫瘍薬ニボルマブ(オプジーボ)(NEWS No.488 p08)

前回の懇話会でニボルマブという高額な新規抗がん剤を調べる宿題がでました。この薬の名前をネットで引くと「夢の薬」「ガンが消失」「がんの究極薬」「著効例多数」などいかにその効果が素晴らしいかが書かれています。しかし承認審査報告書に書かれている結果にはそのような絶大な効果は見当たりません。あとから出された高い有効性を示した臨床試験との差はどこから出てきたのでしょうか?
ニボルマブはヒトPD-1に対するヒト型IgG4モノクローナル抗体です。PD-1とPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との結合を阻害することで、ブレーキがかかっていた抗原特異的T細胞を活性化させることができます。あらゆる抗原特異的T細胞を活性化するため抗腫瘍作用だけでなく、様々な自己免疫疾患を引き起こすため、その有害事象が報告されています。
審査で有効性の判断の根拠とされた悪性黒色腫患者を対象とした国内第Ⅱ相試験(ONO-4538-02試験)の解析が添付文書に書かれています。Wilsonのスコア法を用いた近似法では信頼区間の奏効率22.9%(90%信頼区間:13.4~36.2%)、事前に設定した閾値は12.5%とあります。その下に小さな文字で「二項分布の確立計算に基づく正確法により求めた90%信頼区間は11.9~37.5%であった。」とかかれています。これは閾値奏効率を12.5%とする帰無仮説検定で解析方法によって閾値を上回ったり、下回ったりして有意差が不確実であることを示しています。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)抄録に治療歴を有する進行期非扁平上皮非小細胞肺癌に対するニボルマブvsドセタキセル無作為化第Ⅲ相試験(check mate -057試験)について報告されています。主要評価項目を全生存期間、副次的評価項目の1つにPD-L1発現率による有効性の評価が書かれています。高いPD-L1陽性率を持つ人は少なく10%以上は231人中86人(37.2%)と少数です。PDL-1陽性率が 1・5・10% 未満の全生存期間ハザード比の結果に有意差は認められませんでした。逆に高発現率層を含むPDL-1陽性率1・5・10% 以上では優れた成績を示しています。しかし、ブリストリルマイヤーHPの日本語訳では「PDL-1陽性(>1%)の患者に於いて全生存期間中央値は標準治療8-9ヶ月に対し2倍の17-19ヶ月となりました。」と記載しています。本当は成績優秀な高PD-L1発現層が全体の成績を押し上げているだけなのです。ニボルマブは適応患者を選択しなければ有効な薬ではありません。
ニボルマブは作用機序から多種の癌に効く可能性があり、適応拡大に向け臨床試験が着々と進められています。財務省のHPでは財政制度分科会の資料に「癌治療のコスト考察;特に肺癌の最新治療ついて」という資料があげられています。財政を逼迫させる薬剤費に財務省は危機感を募らせています。日本の医療保険制度の危機は厚生労働省のいい加減な審査が原因なのです。
薬剤師 小林