問題提起:話題の抗がん剤「免疫チェックポイント阻害剤」の臨床試験(NEWS No.489 p05)

この間の医問研例会では、抗がん剤の臨床試験論文の議論がなされていることは寺岡氏のレポートで紹介されている通りです。 

浜六郎氏ら発行「薬のチェック」誌では、今日本で最も多額の1000億円を消費している「アバスチン」に、「結腸・直腸がん、非小細胞肺がん、乳がん、卵巣がん、いずれも不可」との結論をだしています。

現在、さらに高額の新しい機序「免疫チェックポイント阻害剤」による抗がん剤の一群が開発されています。その中で、小野薬品工業とBMSの開発によるオプジーボ(ニボルマブ)が、世界に先駆けて2014年9月に日本で保険適用されました。一人年間3000万円以上というこの「薬」は年間1兆7500億円も使うと財務省が試算、他方で小野薬品工業は1260億円と試算しています。いずれにしても、他の医療費を大きく圧迫するものにかわりありません。

この薬剤を他の世界的巨大製薬企業も開発しつつあります。例えば、ロシュ社はAtezolizumabの治験論文をだしています。この論文と、オプジーボの2治験論文を見てみますと、共通する特徴があります。

まず、全がん患者overall suvivalでは約3ヶ月間延命した(図1)、としているのに、がん病勢の進行の見られないprogression freeの人たちでは明白な延命効果はありません(図2)。Atezolizumabでは対照薬と「同様’similary’」となっています。逆に、アバスチンでは、全がん患者では有意差がないのに(図3)、progression freeでは相当延命した(図4)ことになっているのです。
ということは、オプジーボではprogression freeでない患者、すなわち病勢が進行した患者で大幅に延命効果があることになります。

「免疫チェックポイント阻害剤」の3論文共に、病勢が進行すれば試験薬・対照薬共に投薬は中止することになっています。ところが、よく論文を読むと試験薬のみは病勢が進行していても主治医の判断で投薬を継続することになっているのです。(その人数は、オプジーボの2論文で、それぞれ71人と28人)それ自体も方法論的に問題にされなければなりません。

それだけではなく、その方法による結果が問題です。オプジーボに関する2論文のAppendixにはそれらの患者の経時的死亡数が載っていますが、それらの患者の各時点の延命率は、同じ薬の全生存率よりはるかに良いのです(図5、6)。すなわち、この操作のために病勢が進行しない患者より進行している一群の患者の方が、延命率が異常に良くなっているのです。

また、これらの薬剤群は、3論文ともこれまでの薬より3ヶ月間延命(偶然にも?3論文とも同じ)しますが、治癒するわけでなくその効果は極めて限定的です。

さらに、これらの論文はもとより、がんの効果を証明する論文によく使われるカプラン・マイヤー法では、経過の段差をもつ曲線様の線でそれぞれの群の人数の減少を表して比較していますが、その減少が死亡によるものか脱落によるものかが明記されなければならないはずですが、それがなされていません。そのため、論文を読んでも、詳しく検討できないブラックボックスでの評価になります。そのことも含め、すべての生データの開示が求められます。それが、これらの薬剤費を払っている市民・患者の権利であり、科学的な評価をする専門家にとっても不可欠です。

以上の論議には、私のがん治験上の知識不足による不備が多々あるかと思います。また、今回はたった3論文の考察ですので、他の論文の分析を含めた今後の議論の一石と考えていますので、例会などでの議論をお願いします。

はやし小児科 林

図1:オプジーボの全患者生存率経過
(約3ヶ月延命するとしている)Borghaei H 2015

図2:オプジーボの病勢進行なし患者
両者の線が交叉しており、効果を証明できていない)

図3:アバスチンの全患者生存率経過
(両者に有意差なしとなっている)

図4:アバスチンの病勢進行なし患者Miller2007
(この比較では、有意差あり)

図5:オプジーボの全患者(破線)と病勢進行してもオプジーボを続けたグループ(実線)の比較(Borghael H 2015) 全患者より病勢進行患者だけの方が生存率がはるかに良い(減少の程度を%で表示)

図6、図5と同じ比較(Brahmer J 2015)