くすりのコラム 薬剤耐性菌(NEWS No.489 p08)

2015年WHO総会において、「全ての国に対し、世界行動計画の採択から2年以内に、国家行動計画 を策定し、行動すること」が決議されました。この5月26・27日に行われる伊勢志摩サミットの議長国としてG7諸国が協調して薬剤耐性菌対策に取り組む方針を取りまとめなければいけません。世界行動計画には、①教育・普及啓発 ②研究・サーベイランス ③感染予防 ④抗菌薬の最適化 (抗菌薬のみならず、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬も対象)⑤新薬への投 資 の5つの目標があります。日本は議長国として恥ずかしくない行動計画をたてなければいけません。(注)抗生物質、合成抗菌薬併せて抗菌薬と表記しています。

厚生労働省は2016年4月5日に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を発表しました。他国と比較した1000人あたりの抗菌薬使用量やその種類、耐性菌の種類について報告があります。日本の使用量は他国と比較して多い訳ではありませんが多種の細菌に抗菌効果を示す抗菌薬が汎用され、ペニシリ ン系薬剤の使用は低いのが特徴です。 医療機関で処方する抗菌薬を現在の2/3にまで減らすため具体的な削減目標が盛り込まれています。この報告のなかで一番驚いたのは畜産動物に使用する抗菌薬の多さでした。抗菌薬は2001年飼料添加物で230トン、動物用医薬品として1060トンと報告されています。1998年のヒト用医薬品抗菌薬は520トンです。

農林水産省では動物用抗菌薬の使用を減量するための案が書かれていました。動物用抗菌薬は餌の品質低下を防ぐために混ぜられているものと成長を促進させるために使われているものがあります。抗菌薬が成長促進?と思われるかもしれませんが、なんとヒトには睡眠薬に使用されているブロチゾラムも食欲増進の目的で畜産用動物に使用されています。抗菌薬の成長促進作用は「有害な細菌の抑制 」「栄養分の細菌による利用を抑制し家畜が利用」 「有害な発酵物の抑制」にあります。EUでは2006年までに抗菌薬の成長促進利用を全面禁止したと農林水産省は報告しています。

WHOのフクダ事務局長補は「関係者らが早急に連携して対応しなければ、世界は『ポスト抗生物質時代』に突入する」と指摘しています。日本では新しい感染症発病者に社会的制裁を加えようとする風潮があります。1996年にハンセン病に対する「らい予防法」は廃止されましたが、未知の感染症に対する精神は「らい予防法」と何も変わっていません。畜産現場では鶏インフルエンザ被害農家の夫婦がメディアに叩かれ自殺しました。学生が新型インフルエンザを発症した高校では校長が涙ながらに謝罪し、高齢者施設でインフルエンザが流行し死者がでれば会見で謝罪させられています。病気よりも発生元となることを恐れ異常なまでの清潔志向、抗菌薬乱用社会が出来上がってきました。社会全体でこの風潮を変えなければ抗菌薬乱用をなくすことはできません。

薬剤師 小林