臨床薬理研・懇話会5月例会報告(NEWS No.490 p02)

Ⅰ.シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第15回
HPVワクチン・ガーダシルの安全性に関連する動物実験論文

今回は「臨床薬理論文」ではなく関連文献となるが、渦中にあるHPVワクチン「ガーダシル」の安全性に関し、Vaccine誌電子版に掲載されたが、その後強引に撤去された動物実験論文をとりあげました。論文のCorresponding authorはアジュバントによる自己免疫疾患の研究者Shoenfeld教授(イスラエル)です。論文はVaccine 誌の査読を経て、副編集長Altmann教授により受理され電子版に掲載されましたが、その後ワクチンメーカーと利益相反のあるPoland編集長によって撤去されました。

撤去は著者たちに連絡なく一方的になされ、PubMedに掲載された撤去理由は、正式に掲載した論文の撤去説明として普通には考え難い攻撃的なもので、「その科学的健全性について深刻な懸念がある」「研究方法に深刻な欠陥があり、論文の主張は正当化できないと確認された」「国際的な査読ジャーナルとして、これ以上閲覧されないようにする義務がある」と記されていました。撤去の1週間後に、強制撤去正当化のためと解される一度掲載した論文に対する3名の無記名講評文書が著者に送られてきました。

撤去された論文は、若い雌マウスにガーダシル、アルミニウム、溶媒(対照)を、マウス20g、ヒト(少女)40kgとして体重当たりで等量を1日おきに3回筋肉内投与し、3か月、6か月の時点で運動機能、認知機能などに及ぼす影響をみるとともに、一部の動物から採取した血液を血清学的に分析、また脳の免疫組織学的検査を行った結果をまとめています。

結果は、強制水泳試験、Y迷路試験、階段装置試験で行動科学的ないし認知異常が観察されました。血清学的分析、脳の免疫染色はガーダシル、アルミニウム投与により海馬CA1領域が神経炎症の害を受けやすいことを示唆していました。またガーダシルを投与したマウスから得た抗HPV L1抗体は、HPV L1抗原のみならず脳の複数の神経組織抗原と免疫交差反応を示すことが示唆されました。これらのことからガーダシルは、そのアルミニウムアジュバントとHPV抗原の媒介で、神経炎症と自己免疫反応を引き起こし、行動変化に至るものと考えるとの内容です。

当日の討論の際、参加されていた浜六郎さんから動物実験の基本的な考え方についてレクチャーいただきました。ロッシュ社の研究者Zbindenが動物実験の基本について Advances in Pharmacology 1963; 2: 1-112にまとめており、そこでは動物毒性試験の目的はヒトでの毒性を予測しヒトを傷害から守ることにあり、限られた動物数でヒトでのまれな害作用を予測するためにも、治療量よりも多くの投与量を用いる重要性が書かれています。また、比較的最近の2005年7月にFDAが公刊した “Guidance for Industry”においても、ヒトと動物の用量の対応について、AUC(血中濃度曲線下面積)での比較が可能でない場合、体重当たりの換算でなく体表面積での換算が適切であり、より多くの投与量が適切であるとし、換算係数を示しています。今回のShoenfeldたちの実験は体重当たりの換算投与量が用いられており、そうした少量でも強制水泳試験、Y迷路試験、階段装置試験で行動科学的ないし認知異常が観察されていることは注目され、さらに多量を用いると今回差が出なかった回転軸試験などでも差がみられるのでないかとのことでした。
血清学的分析、脳の免疫組織染色は、ガーダシル、アルミニウム投与により脳の海馬CA1領域が神経炎症の害を受けやすいことを示唆していましたが、著者たちがこれはHPVワクチンに限られた話でないとし、ワクチンの「マス接種」に警告を発していることも傾聴する必要があるのでないかとも話し合われました。

[訂正] 医問研ニュース489号掲載の、抗がん剤オブジーボの例会報告2ページ右下から4行目を「—受容体であるPD-1に対するモノクローナル抗体です。がん細胞に発現し、PD-1に結合するリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)PD-L1とPD-1との結合を阻害することで抗腫瘍効果を期待して開発されています(PD-L1発現がバイオマーカー)。」と訂正、また3ページ左上3-4行目の「PD-1発現」は「PD-L1発現」に謹んで訂正します。

薬剤師 寺岡