大阪小児科学会 第5回低線量被ばくを考えるセミナー報告(NEWS No.490 p07)

今回セミナーの講師に依頼され、テーマを「ドイツKiKK研究に学ぶ」としてお話しました。
KiKK研究は、2007年にドイツ環境省・連邦放射線防護庁により報告され、住居が通常稼働中の原子力発電所に近いほど小児のがん・白血病が明らかに増加することを証明した疫学調査です。事故のないレベル0の原発が排出する微量な放射性物質が原因と考えられ、大事故でレベル7となった日本の現状を理解する上で、知っておかねばならない重要な調査結果です。
研究の結論は、原発5km圏内の5歳未満の子どもは、がん全体で1.61倍、白血病で2.19倍のリスク増加があり、白血病では原発に近いほど高くなるというものです。調査は、がんになったこども(症例)1592人とがんにならなかった子ども(対照)4735人の計6372人の個々人を比較し、ドイツ政府の後ろ盾で行われた大規模なもので、科学的に証明された結論は公式見解となっています。

オッズ比下限値症例数
全小児がん1.611.2677
全白血病2.191.5137

このリスク値を、日本の子どもたちにシミュレーションしました。全国で原発54基が稼動していた1980年から2010年の間、原発10km圏内で白血病が毎年1人、5km圏内で小児がんが毎年1~2人、5歳未満の子どもたちに発生したことになります。
KiKK研究のリスク値は、ICRPの内部被ばくモデル(シーベルト換算)によるリスク評価の千倍の値であり、疫学的事実が従来の知見とされる科学的根拠のないICRPの申し合わせを根底から覆すものとなっています。その根拠として、電磁波放射線(ガンマ、X線)と荷電粒子線(アルファ、ベータ線)の生体内の作用、エネルギー付与の違いがあげられます。ICRPは泉質係数としてベータ線1、アルファ線20を荷重していますが、生体内の数ミクロン~数ミリの範囲で全エネルギーを付与して消失し、たんぱく質を変性させ(ベータ線)たり、がん細胞を破壊(アルファ線)する強力な作用とに、現実と理論に千倍レベルの違いがあることをKiKK研究は証明したことになります。

通常稼動(レベル0)における原発の明らかなリスクは、レベル7の深刻な放射能の外部放出(空中拡散、土壌沈着、食物連鎖など)の下にある日本の子どもたちの危機的状況を教えています。甲状腺がんの多発、鼻血、出生率の低下など、子どもたちにみられる健康上の異変は「命の線量計」として、従来の固定観念にとらわれず、ありのままの現実を科学的に分析し、起こりうる被害を最小限に抑えることが、将来の世代に対する大人の責任であることを訴えました。
会場には大阪小児科学会会員ほか、物理学の専門家、一般市民の皆さんが多数参加いただきました。

入江