くすりのコラム かかりつけ薬剤師(NEWS No.490 p08)

かかりつけ薬剤師制度がこの春から始まりました。担当薬剤師は患者さんから24時間電話相談に応じる体制をとり、開局時間外の連絡先や勤務表を患者さんに渡すことが算定の要件にあります。つまり、かかりつけ薬剤師制度とは患者と薬剤師個人の結びつきを求めたものなのです。薬剤師としての職責を全うするための良い制度ができたという意見がある一方で、現場の薬剤師たちからは困惑の声が聞かれました。しかし、現場の声に誰もまともに取り合おうとしていません。

「介護労働学入門 ケア・ハラスメントの実態をとおして」八戸大学講師、篠崎良勝著によると介護労働者の4割が利用者から性的嫌がらせを受けたことがあると答えています。薬剤師は介護労働者のように患者の身体に直接触れることが職務ではありませんし社会的立場も恵まれています。しかし患者さんと単独で接する機会が増える薬剤師にとって性的嫌がらせはより身近なものになってきます。文科省は高校生の学外における学修単位として介護ボランティアを認めていますが、このような生身の人間がもつ「性」の問題には無関心です。「性」を公に語ることを忌避する社会状況の中で労働者が遭遇する「性」の問題について議論・研修・対策をせずにプライベートな問題として個人に押し付けたり無視することは間違っています。「患者さんから手を握られた・キスされそうになった・ベットに誘われた・体を触られた・性器を見せられた…こんなことが起きたらどうしますか?」そんな問いかけが必要なのです。

以前勤めていた薬局で車椅子の男性患者にトイレ介助を頼まれたことがありました。当時トイレ介助は技術が必要であること下手な介助は怪我をさせてしまう可能性があることなど知らなかったため、急を要する場面で私はただ混乱していました。すると咄嗟に同僚がでてきて、トイレに案内してすぐ扉を閉めて出てきました。その患者さんは本当は歩けることや、薬局に来てはトイレ介助を頼み服を脱がせ便座に座らせたら今度は性器を触るよう言われると教えてくれました。その時この出来事が女子高生を狙った性犯罪に似ていると思いました。その高校生の運が悪かったから起きたのではなく、学校が「ひとには優しく」と教育しておきながら身を守るために必要な知識を教えていないから起きたのです。

2005年の「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」により薬剤師もバイタルサインをとりフィジカルアセスメントを行うことができるようになりました。「性」の問題がなかったとして、薬の整理のため患家訪問時に坐薬挿入を頼まれた場合どうしますか?では、坐薬挿入を目的に自宅を訪問を頼まれたらどうしますか?患者さんには看護師と薬剤師の区別ができない人がたくさんいます。薬剤師の本来の職域を明確にし患者側に理解されなければ、かかりつけ薬剤師制度は双方にとって不幸な制度になるかもしれません。

薬剤師 小林