臨床薬理研・懇話会8月例会報告(NEWS No.493 p02)

シリーズ・臨床薬理論文を批判的に読む

今月は新たな文献をとりあげるのは都合で休み、15回でとりあげた (医問研ニュース490号2ページ参照) HPVワクチン・ガーダシルの安全性に関連する動物試験論文を国際査読誌が掲載後に不正撤去した問題を、日本社会医学会総会 (2016.8.7草津) で寺岡が口演したスライドなどについて報告しました。

論文の著者たちは、Vaccine誌 (Elsevier) に掲載された論文が著者たちに知らされないまま撤去されていたことに強く抗議するとともに、論文に加筆し他の専門誌への再投稿を行いました。この論文がImmunol Res誌 (Springer) 電子版に 2016年7月14日、早くも掲載されました。このこと自身、論文を撤去したPoland 編集長らがあげていた「論文の科学的健全性に深刻な懸念、研究方法に深刻な欠陥」の撤去理由の不当性を示しています。

HPVワクチンについては、WHOのGACVS (ワクチンの安全性に関する諮問委員会)が、2015年12月の声明で、「本ワクチン使用の推奨を変更しなければならないような、いかなる安全性の懸念も見出されていない」とのべ、日本での積極的勧奨中止を名指しで批判しました。日本産科婦人科学会、日本小児科学会などが積極的勧奨再開を強く求めています。2016年7月23日には、HPVワクチンの健康被害に苦しむ女性たち63人が集団訴訟を提訴しました。

今回の論文不正撤去事件とHPVワクチンの安全性に関する動物試験情報が広がるのを妨げようとする点で共通性のある事件が日本でも起こっています。ワクチン接種後の神経障害の治療法の確立と情報提供について研究する厚生労働省研究班(班長: 池田修一信州大学脳神経内科教授)の研究成果発表にねつ造があるとして、積極的推奨再開キャンペーンをしているJR東海発行の雑誌 Wedge 2016年7月号が「研究者たちはいったい何に駆られたのか 子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れる根拠、暴かれた捏造」(医学ジャーナリスト村中璃子) の記事を掲載、池田教授が2016年8月17日、名誉棄損で提訴しています。

HPVワクチンの安全性問題は注視していく必要があります。

薬剤師 寺岡