被曝と甲状腺がん異常多発の関連を否定する理屈:「年令分布」に関するウソ(NEWS No.493 p04)

福島医大鈴木眞一教授は、2016年に出版された2つの論文(1、2)で、甲状腺がんが多数発見されたことは放射線被曝とは考えにくいとしています。前号でそれらの「理由」項目を紹介し、その一つ「地域差がない」に対する山本氏の反論を掲載しました。

鈴木氏はまた、患者の年令分布がチェルノブイリと比して福島では高年齢であることが被曝との関連を否定する第一の理由(1)に、他の論文(2)では第3の理由にあげています。特に、5歳以下で患者が出ていないことを強調しています。しかし、その後の発表の本格検査では5歳児からも発見されています。

図1は鈴木氏が引用している論文(3)からのウクライナの患者の年令分布です。人数の多い方が1990-1993年(被爆後4-7年後)に発見された人たちで、少ない方が被曝後1986?9年(被曝後0-3年後)の分布です。
図2は福島での「先行検査」での患者の年齢分布で、被曝後0.5-2.5年後の発見です。

<事故当時の年令分布である>
ここで注意して欲しいのは、これらの年令分布は事故当時の年令だということです。10歳時に発見されても事故から2年経ていればグラフでは8歳で、5年では5歳で表されます。事故時の年令分布は被曝から年が経てば経つほど若い年齢が増えるのです。

上記図1のウクライナでの1990-3年の年令分布は、被曝から平均5.5年程経ています。福島の「先行検査」は同平均1.5年程ですから、4年程年齢が高くて当然、ということになります。
また、図1の1986-9年の分布は被曝後平均2年程ですから、福島「先行検査」の分布に似ています。
更に、福島の「本格検査」(図3)は被曝から平均3.5年程経た分布です。これはウクライナの1990-3年の分布と、「先行検査」の分布との中間的な分布になっています。
要するに、被曝から検査までの期間が長くなればなるほど、子どもたちの年令が上がり発見率が高まり、それが被爆当時の低年齢の患者の人数を多くする、ということになります。
したがって、この年齢分布の差をもって、被曝が原因でないとの理由にはならないのです。

(1)Suzuki S et al. Thyroid 2016;26:843-51,
(2)Suzuki S et al. Clin Oncology 2016; 28: 263- 71,
(3)Tronko MD et al. Thyroid2014;24:1547-8

はやし小児科 林

以下、上から図1,図2、図3