福島の県民健康調査の縮小反対(NEWS No.493 p07)

福島県健康調査の縮小への動きが、同県小児科医会の意見などを契機に強引に進められる可能性があります。この動きは今回に始まったものでなく、2014年12月に環境省専門家委員会の中間答申を巡って議論されたものです。

私たちは、以下の理由でこの動きに反対します。

被曝によるどのような障害がどの程度広がっているのかを明らかにするのが、疫学調査としての集団健診です。私たちは、福島だけではなく、福島を中心とした広範囲の、単なる検査ではなく「総合的な健康調査」を科学的に実施すべきと考えています。
ところで、甲状腺がんの集団検診は、一般の集団では利益がなく、チェルノブイリや強い放射線被曝を受けた高いリスクをもつ集団でのみ実施されてきました。福島では被ばくにより高いリスクが想定され、リスクの大きさを推定するものであるとすれば許容される検査でもありながら、政府・福島県はその目的を、単に「不安の軽減」としていました。
しかし、甲状腺がんり患率は、1巡目の「先行検査」で日本全国の20-50倍であることが判明し、2巡目の「本格検査」では異常多発がより明白になっています。多発の程度は、原発との距離や土壌汚染との関連が認められています。(岡山大津田敏秀教授ら、医問研発行の本・ニュース参照)
にもかかわらず、政府・福島県は多発も原発との関連も認めず、超音波で早く多く発見しただけとの「スクリーニング効果」説でごまかそうとしています。今、健康調査の縮小で、2巡目、3巡目の検査が十分に行われなければ、このごまかしが続けられる可能性があります。
健康調査のもう一つの意味は、検診を受けた人に利益を与えるかどうかです。先の「不安を解消」も、そうできれば利益の一つだったのですが、今は多数のがんが発見されたので「不安」だから縮小と主張されています。不安の減少は、検診を受けることの、利点と害を明確にし、説得と納得で得られものです。そのためには、これまでの世界の研究結果と、検診で発見されたがんの子どもたちの症状や発見後や手術後の進展状況など詳しい分析が必要です。しかし、今年になって発表された、福島県立医大鈴木教授らの2編の論文にも、この点の分析は皆無です。
確かに、大人の甲状腺がんも含め、前立腺がん、乳がんなどの検診が有益でなく有害である証拠がありますので、この点の解明は重要な課題です。「過剰診断説」で縮小を求める人たちは、過剰診断にならないような検討を求めない、偏った主張です。
福島県や政府のように、異常な多発が原発事故と関係ない、ないし「現段階では科学的かつ客観的評価は困難」(福島県小児科医会)と主張するのなら、検診の縮小ではなく、科学的に関連をより明快にするための調査方法を提言すべきです。すでに環境疫学者の世界最大の学会ISEEが、そのための援助を政府と福島県に提案しているのですから、それを受け入れ、現在の方法のどこが問題であるかを科学的に解明すべきです。
これらの検討なしに、当初から「強制でなく任意調査」(第一回福島県「県民健康管理調査」:安村委員案)とされている、任意参加を強調して参加を抑制し、2巡目でますます明らかになっている現検診を縮小することは、被ばくによる被害をごまかすことになります。
さらに、福島県県民健康調査で甲状腺がんと診断され治療される場合と、そうでない場合の補償の違いも危惧されます。任意と強調され健診を受けなかった場合に補償を受けにくくなる可能性があります。検診縮小は、将来の補償が危うくなる可能性もあります。

はやし小児科 林