くすりのコラム 高コレステロール血症薬エボロクマブ(レパーサ皮下注)(NEWS No.493 p08)

高コレステロール血症治療薬の有害事象に動脈硬化とあれば使いますか?
高コレステロール血症は動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症などを引き起こすため治療されています。動脈硬化とは内膜にコレステロールなどの粥状物質が溜まり、内膜が肥厚し硬くなる状態を指します。頚動脈は早期に内膜、中膜の肥厚がみられるため、最近では血管年齢測定と称し、頚動脈エコーが盛んに行われています。
今年承認された高コレステロール血症治療薬、エボロクマブは高薬価で対象患者数が多く、財政を逼迫させるとして盛んに議論されています。その効果はプラセボ投与群と比較したコレステロール低下率で判定され抜群の低下率を示しています。
しかし、審査報告書p.57長期継続投与試験の中の日本人集団に「頚動脈内膜中膜肥厚度増加62.5%(5/8例)」が認められたとあります。頚動脈エコーは日本の試験にだけ行われたようで、外国人も含めた全体の報告にはその記載はありません。全体(242例)の成績に書かれた重篤な有害事象(大動脈狭窄・冠動脈疾患・狭心症・大動脈弁疾患・動静脈瘻・血栓症・頚動脈閉塞・胸痛・冠動脈閉塞・血尿・心筋虚血及び非心臓性胸痛)は「副」作用ではなく治療薬としての敗北を意味しているように見えます。

エボロクマブは家族性高コレステロール血症又は心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な高コレステロール血症に適応承認された皮下注射剤です。エボロクマブはヒトIgG2モノクローナル抗体で、LDL受容体分解促進タンパク質であるPCSK9に高い親和性を示し、血中のPCSK9がLDL受容体と結合するのを阻害します。その結果、LDL受容体の分解が抑制され、肝細胞表面でのLDL受容体の再利用を可能とします。その結果、血中LDLを除去するLDL受容体数が増加し、LDLコレステロール(LDL-C)値を低下します。

抗体薬で問題となるのが、その作用点がもつ多様性にあります。「Proprotein Convertase Subtilisin / Kexin Type 9  (PCSK9):  Lessons Learned from Patients with Hypercholesterolemia 」Clinical Chemistry 2014; 60:  1380-1389 にはPCSK9の生理学的働きを理論上から肝再生、インスリン抵抗性、神経学的作用、癌転移、ウイルス感染が考察されています。
審査報告書でもPCSK9阻害によるその他の影響が考察されています。そこには、脳内の慢性神経変性疾患やインスリン抵抗性について影響ないと書かれています。

エボロクマブで承認されたのはLDL-C値を下げる効果で、肝心の動脈硬化やそれが原因となる病気を防ぐという効果は確認されていません。
高い薬剤費を使ってこれから実際の効果や安全性が確認されます。

薬剤師 小林