10月27日に大阪で、「第5回低線量被曝と健康被害を考える集い」が開催(NEWS No.495 p03)

この集いは、日本公衆衛生学会の自由集会として開催されたもので、本年で5年目である。

まず、津田敏秀氏(岡山大学教授)から、「甲状腺がん検出状況の報告と100ミリシーベルト閾値の問題」と題して報告がなされた。

福島では原発事故以降に「原発事故により、福島県内では、被ばくによるがんが発生しない、発生したとしても分からない」という新たな安全神話が語られている。
しかし、この神話の条件になっている①「100mSv以下では被ばくによるがんが生じないし、生じたとしても認識できない」という話は、低線量被ばくで発がんが示された数多くの科学的事実で反駁された。
また、条件②「原発事故処理労働者以外の福島県民には100mSv以上の被ばくはない」という話も科学的根拠は薄いと報告。具体的には、厚労省の圧力で約1/10になったWHO 報告書(2012年5月)でさえ、浪江町の乳児の甲状腺被曝線量は100~200 ミリシーベルト、また、事故直後の母乳を飲む乳児の甲状腺被曝量調査では、数mSvから1200mSvまであった、・・・の事実を語られた。
福島県における甲状腺がんの多発に関して、桁違いの多発であり、もはや多発は揺るがない事実であると分かりやすく解説された。
本年9月の第24回県民健康調査「甲状腺検査」では、この5.5年間にすでに甲状腺がん症例174名、うち手術例135名が報告されている。
まず、外部比較として、「福島県内の被ばくされた地域の有病割合(発見率)」と「福島県外の原発事故被ばくの影響の無い全国標準の発生率(国立がんセンター公表デ-タ)」の比較が重要と指摘。福島医大グループは特に理由も示さずこの外部比較を禁じているためにも要点となると指摘。
実際には、第1巡目の甲状腺検査(先行検査, 2011年度から2013年度に実施)で、20倍から50倍の異常多発が確認されていると指摘された。また、第2巡目の甲状腺がん検査(本格検査、2014年度と2015年度に実施)では、甲状腺がん59名、手術例34名が発見されている。第1巡目で9割以上の人が甲状腺エコー検査の状態から二次検査を不要とされた人たちであるが、先行検査と同様に、20倍から50倍の異常な多発が確認されたと報告された。さらに、「スクリ-ニング効果」や「過剰診断」による見せかけの発生率比の上昇は、2巡目の検査ではほとんど生じないので、「被ばくによる過剰発生」であると考えられる。
最後に、福島では残念ながら、科学的根拠に基づいていない政策が実施されており、科学的根拠を自分の目で確認することが重要であると強調された。

次に、森国悦氏(医療問題研究会)から「福島を含む汚染都県における周産期死亡の増加」の内容が報告された。

2001年から順調に減少していた周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被曝が強い福島とその近隣5県(岩手・宮城・福島・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(人数としては約3年間で165人)も増加した。
被曝が中間的な強さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加。これらの地域を除く全国では増加していなかった。
これは、チェルノブイリ後に、ドイツなどで観察された結果と同様であった。
津波の人的被害が著しかった岩手・宮城と、比較的少なかった他の4県を分けて検討してみると、震災直後の増加は岩手・宮城で著しく、他の4県では見られなかった。これは、津波・地震の一過性の増加は津波・地震の影響によるが、10ヶ月後からの増加は津波・地震の直接的影響ではない可能性が高いことを示している。
この報告の意義は、第一に、甲状腺がんだけでない障害も既に生じていることを明白にしたこと。第二に、被ばくによる障害が、福島県以外の東北関東、さらに、東京・埼玉・千葉にも広がっていることも示したことである。今後、包括的、かつ広範囲な健康調査が必要なことを示しているとまとめられた。

更に会場の参加者と討論が行われた。

甲状腺エコー検診で甲状腺がんを発見した確率・有病割合(有病率)と、一方、甲状腺にしこりや声がかすれたなどの症状で病院を受診し甲状腺がんが診断された「がんが発生」してきた発生率とは単純には比較できないと言う議論がなされているが、この違いをどう考えたらいいのか?
津田氏は、有病割合と発生率を比較する上で、有病割合(P)≒発生率(I)×平均有病期間(D)という最も基本的な疫学の理論式を用いて比較することができると説明された。
「有病期間」とは、今回の場合は、甲状腺検査で「B判定」=5.1 ㎜以上の結節や20.1㎜以上のう胞を認め二次検査を実施した時から、甲状腺にしこりや声がかすれたなどの症状で病院を受診し甲状腺がんが診断できるようになる日までの期間を言うと。
実際には、「有病期間」に20年、30年を当てはめても、統計学的に意味のある多発は変わらなかった。すなわち、「B判定」と言われてから、症状だけで病院を受診するまでが20年、30年と言う非常にゆっくりと進行する甲状腺がんであると仮定しても、多発の事実は揺るがないと説明された。
この点は、福島県・政府も認めざるを得ず、全国平均の「数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見」との認識を示している(本年3月-福島県県民健康調査検討委員会の「中間取りまとめ」)にも関わらず、福島医大グル-プは、「比較できない」「本当に増えているかは科学的に分からない」として、異常多発をごまかしてきており、重要な論点が会場の議論で深められ有意義なことであった。

自由集会全体のまとめとして、甲状腺がんの多発は、もはや多発は揺るがない事実である。健康障害は甲状腺がん以外にも、また、福島県以外の東北地方、関東地方にも広がっている。今後、包括的、かつ広範囲な健康調査、健康診断が必要なことが確認された。

たかまつこどもクリニック 高松