第6回「低線量被ばくを考えるセミナ-」「低レベル放射線被曝影響:分かっていることとよく分からないこと」報告(主催:大阪小児科学会地域医療委員会)(NEWS No.496 p04)

今回の講師は、今中哲二氏で原子力工学の専門家です。大学院時代より日本の原子力開発の在り方に疑問をもちはじめ、研究者としては、原子力を進めるためではなく原子力利用にともなうデメリットを明らかにするための研究に従事してこられました。広島・長崎原爆による放射線被曝量の評価、チェルノブイリ原発事故影響の解明、福島原発事故による放射能汚染調査と周辺住民の被曝量評価などを行っておられます。

初めに、「放射能とは、放射線とは」との話では、特徴は大きなエネルギ-を持つ電磁波、粒子であると。放射線のエネルギ-は数十万から数百万eVで、放射性粒子のエネルギ-は数百から数千倍も大きい力で生体内の組織、細胞、分子を破壊するなどと、その危険性を分かりやすく話をしていただきました。

「放射線障害の歴史」では、国際放射線防護委員会(ICRP)の公衆線量限度勧告の変遷の歴史を紹介されました。1950年勧告は、すべての線量を実用可能な限り低く(As Low As Practicable:ALAP)保つべきであるとした。その後は、「社会的・経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く(As Low As Reasonably Achievable;ALARA)」被ばく線量を制限すると変遷し、公衆の線量限度を年間1ミリシ-ベルトとしたと。実際には、年1ミリシ-ベルトという被曝に伴うリスクの評価を放棄してきたとも。しかし、医学的研究の発展は、低線量被ばくで発がんを示す数多くの科学的事実が存在し、低レベル放射線被曝でがんが増加する事実はゆるぎないと。

福島原子力発電所の事故で、東京都から岩手県まで本州のかなりの部分で、“無視できないレベル”のセシウム137汚染が生じ、わが国においても「放射能汚染と向き合う時代になった」と解説されました。汚染についてのキチンとした情報をもとに、被曝量とそれにともなうリスクについて皆が理解し、どこまでガマンするかを自分たちで決めなければならないと。

原子力村の人たちが自分たちの権益を守るため「100ミリシ-ベルト以下では影響はありません」といった個人的見解を述べるのは勝手であろうが、少なくとも汚染対策に責任を持つべき人々が依拠すべき見解ではない。低レベル被曝の影響について未知な部分があることは確かだが、よく分からない部分に対しては予防原則の考え方で臨むのが行政のとるべき基本的姿勢である。その上で、専門家の役割は、放射能汚染、被曝量、被曝リスクについて、できるだけ確かな情報を提供し、人々が自分で判断するのを手伝うことにある。この考え方は、2011年に発行した「低線量・内部被曝の危険性-その医学的根拠-」で医問研が書いた立場とも共通するところです。

「福島後の時代を考えていく」として、「どこまでの被曝をガマンするのか?についての一般的な答えはない」と言われた上で、私としては、年1ミリシ-ベルトであっても東京電力由来の被曝は不愉快であるが、放射能汚染に対するガマン量の目安を考えるときの出発点であろうと語られました。

同時に、子どもは感受性が大きく、将来がある。子どもの被曝はできるだけ少なくすべきである。福島だけでなくもっと広い範囲で、定期的に子どもたちの健康診断を行い、健康状態を把握しておく必要があると。そして、子どもたちを守るために最低限必要なこととして、1)子ども達の登録制度を作り、全員の被曝量をキチンと見積もる、2)定期的に健康診断をおこなう、3)近隣の汚染の少ない地域ともども、子どもたちの健康状態を追跡調査するシステムを確立する、4)被爆量に拘わらず、原発事故に関連する健康被害のケアを法律で制度化する、と提言されました。

たかまつこどもクリニック 高松