オプジーボ続報(NEWS No.496 p06)

前号で、欧州臨床腫瘍学会ESMOに、オプジーボの効果が従来の化学療法より優れていないとの発表がされたことをお伝えしましたその後、ESMOからのプレスリリースや発表の要旨が手に入りましたので、それらの内容をお伝えします。

この研究は、CheckMate 026というもので、ランダム化比較試験の第三相試験です。対象患者は未治療のステイジⅣまたは再発の非小細胞肺がんです。対照は化学療法(IC PT-DC)です。方法は以前のNew Eng J Medに報告された同薬の試験方法と同様に、試験薬と対照薬を平等に2群に分けるランダム化比較試験RCTで、医者も患者もどちらの薬が使われたか分かる「オープンラベル」方式です。

治験は、病気が進行するか、受け入れられない毒性が現れるまで続けられました。化学療法群の患者は病気の進行とともにオプジーボに変更可能としています。

無増悪生存期間Progression Free Survival(PSF)でも全生存期間Over all Survival(OS)でも効果なし

結果は、オプジーボが標的として効果を発揮するPD-L1 の発現が5%以上である 423人で効果が比較されています。結論として、オプジーボはがんが進行しない(無増悪)生存期間PFSを改善できませんでした。他方で、安全性については、化学療法より良かったというものです。

PFS(中央値:以下同じ)は、有意差はないもののむしろ化学療法の方が1.7か月長くなっています。全生存期間OSでは、オプジーボの方が1.2か月長いのですが、有意差はありませんでした。(表1)

他方で「全」有害事象はオプジーボの71%と化学療法の92%、「重篤」な有害事象ではそれぞれ18%と51%と、オプジーボの方が良かったとの結果です。

困った専門家達は、「安全性が高かった」とか、「OSに関してはオプジーボから化学療法にクロスオーバーした人が多かった」(Socinski MA)、(対象患者に)PD-L1の発現率が低い患者も含めたから(効果が出なかった)(Vansteenkiste J)などと解釈し、オプジーボを擁護しています。

別の治験結果との比較

これまでの治験論文と違いCheckMate026は、効果なしだったので、他の治験結果と比較してみました。(表1,図1)CheckMate026では、PFSはオプジーボの方が化学療法より0.3ヶ月短く、OSでも0.8ヶ月長いだけでほとんど同じでした。Brahmerらの論文でも、オプジーボのPFSは3.5ヶ月、化学療法では2.8ヶ月でその差は0.7ヶ月で有意差なしです。ところが、OSではオプジーボ9.2ヶ月は化学療法6ヶ月より3.2ヶ月長く(良く)なっています。Borghaei論文でも、PFSはオプジーボが2.3ヶ月、化学療法4.2ヶ月で、オプジーボが1.9ヶ月短く(悪く)なっているにもかかわらず、OSでは12.2ヶ月と9.4ヶ月でオプジーボが逆転して3ヶ月長く(良く)なっているのです。

まとめますと、Brahmer論文も、Borghaei論文でも、オプジーボのPFSはCheckMate026と同様に化学療法と有意差がないのに、OSはCheckMate026とは違い大変長い(良い)結果が出ているので化学療法より「効果有り」となっているのです。

この違いがどこから来たのかを調べる必要があります、というか小野薬品工業やBMS社は明らかにする義務があります。もちろん、対象集団や対照薬が違いますので、その点の検討は必要かとは思いますし、前述の専門家の意見も検討する必要はあるかと思います。

がん進行患者の方が長生き?の影響か

私は、先の矛盾の一つに、両論文では病気が増悪(進行)している患者の生存期間Non Progression Free Survival(NPFS)が、とても良かったことと関連しているかも知れないと思いました。

以前、本ニュースで説明したように、病勢が進行すると、その人達の治療は中止される約束になっていました。しかし、その人達の中でBrahmer論文で28人(全体の21%)、Boghaei論文で71人(全体の24%)がオプジーボの治療が継続されています。その人達の生存率中央値はOSより3ヶ月以上も、極端に長くなっているのです(表2)。今回のCheckMate026ではそのデータは不明ですが、先の2つの論文と違い、オプジーボのOSは化学療法と同じ程度だったので、そのような操作はされていなかったのかも知れません。

そうだとすれば、小野薬品やBMS社はこの違いを明確にし、オプジーボの効果なしとしたCheckMate026の欠陥として批判することも可能と思われますが、それもしていないように思われます。

いずれにしても、これまで2論文ではPFSでは効果がなかったにもかかわらず「効果有り」とされ、CheckMate026では「効果なし」となり、株価も大幅に下がったのはなぜか、などが公表されるべきです。

薬価を半分にしても、国民に法外な負担をかけることを考えれば、これらの疑問に答えると共に、全てのデータの公表することは当然の義務です。

はやし小児科 林

表1:各研究報告の生存期間中央値(月)比較

オプジーボ化学療法
PFSCheckMate0264.25.9
Brahmer3.52.8
Borghaei2.34.2
オプジーボ化学療法
OSCheckMate02614.43.2
Brahmer9.26
Borghaei12.29.4

図1:各研究報告の生存期間中央値(月)比較

表2:各研究報告のPFS,NPFS,OS比較

Brahmer
Op=135,chemo=137
PFS3.5
NPFS(28人)12.4
OS9.2
Borghaei
Op=292,chemo=290
PFS2.3
NPFS(71人)15.9
OS12.2
CheckMate026
N=423
PFS4.2
NPFS?????
OS14.4