精神科病院長期入院者のリカバリーを支援する NPO法人kokoimaの取り組み(NEWS No.496 p08)

私は、沖縄旅行に行ってきた。
5月のある日、71歳女性が「一生に一度沖縄に行きたい」と、お誕生日の抱負を語った。 行こうよ、沖縄。夢をかなえよう! と決めてから、7か月後、「益田さんと沖縄に行く会」御一行8名で3泊4日の旅行が実現した。
しかし沖縄に行くためにはいくつものハードルを越えなければならなかった。
それはなぜか。 益田さんをはじめ、私たち「ココ今ニティー写真展クラブ」(注*)のメンバーは、精神科病院の長期入院者であったからだ。
ハードルを現段階で荒っぽく分析すると、「メンバー自身の問題」「既存の精神科治療プログラムにはない希望であった」「行動の自由が、主治医である精神科医に握られているという現実がある」などがあった。まあ、そうしたハードルを越えられず、13名の「行きたい」参加者が8名となった。
なぜ、沖縄に行きたいというような誰もが簡単に実現できる希望を、精神科病院の長期入院者は、簡単に実現できないのだろう。
精神科の長期入院者の人たちは、「行く」「行かない」「もうやめます」「やっぱり無理や」「こわい」「15年間外泊もしたことがない人間なんや」「お金がない」いろいろ語り口は変わるが、一様にどの人も揺れる揺れる。未経験なことに対する漠然とした不安といっていいのだろうか……揺れる、揺れる。こうした揺れは、何回もミーティングをしてひとつ一つクリヤーしてきた。その結果、沖縄旅行だけでは意味がない……という意見がだされ、じゃあ沖縄でも写真展しましょうか?と、沖縄出張写真展が実現した。揺れに付き合っていると、そこから思わず素敵な企画がたちあがってくることも、過去4年間の写真展活動で実証済みである。
私は思う。揺れを恐れて、未経験のできごとにチャレンジさせない保護的な安全な治療が院内安定を生み出してきた要因の一つではないだろうか(これは、30年以上精神科の臨床で過ごしてきた自身の悔恨でもある)。
障害からの回復を支援するとは、そんなん無理やろ〜、入院中やから、などとあきらめてしまいがちな本人たちの夢・希望を実現できるよう、個々の揺れに懸命に伴走することである。それがリカバリーの道を共に歩むことだと確信できる。特に、長期入院者のために臨床家と地域に拠点を持つ者とが、ともに懸命に伴走することが、病院から施設へではなく、病院からまちの暮らしのなかへと移行できる地域包括ケアシステムを実現することになるのではないかと考えている。

小川貞子

http://kokoima.com

*ココ今ニティー写真展クラブとは、浅香山病院の長期入院者を撮影した写真パネルの前で、本人が観覧者に名刺を渡し、写真の感想を聞きながら相互交流するナラティブ写真展を展開する活動である。4年前から活動し、当初は、長期入院者、看護師、臨床心理士、作業療法士、事務員、カメラマン(大西暢夫)、病院ボランティアさん、大学教員などで構成。
わたしは、この活動をきっかけに病院を退職し、現在は障害のある人もない人も、ともに居合わすことのできる場づくりをめざして、NPO法人kokoimaを立ち上げ、最初の事業として浅香山病院の近くにCaféここいまを運営している。