臨床薬理研・懇話会12月例会報告(NEWS No.497 p02)

シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第20回
効果絶大の臨床試験論文は症例数と再現性に要注意!

臨床試験の中途解析で効果がはっきり示されたので、「これ以上試験を続けることは被験者の患者に不利益になる」と、試験の中断がよくされます。今回はこのことにも関連して、効果絶大の試験成績が得られた被験薬のその後を、既存の多数の臨床試験を対象とするメタ解析で「これ以上の臨床試験は不要という経験的ルールは適切か」について検討したBMJ誌の論文を取り上げます。
Nagendran M et al. Very large treatment effects in randomised trials as an empirical marker to indicate whether subsequent trials are necessary: meta-epidemiological assessment. BMJ 2016; 355: i5432. (オープンアクセス)

(目的) ランダム化比較試験において非常に大きな効果 (very large effect, VLE; 相対リスク0.2以下、リスク低下80%以上)の場合、それに続く臨床試験は必要がないという経験的な目印があるが、それでよいかを検証する

(デザイン) ランダム化比較試験の既存の出版されたデータの疫学的メタ解析

(データ・リソース) コクランシステマティックレビューデータベース(2010年7版)とそれ以後の2015年12版までの大規模臨床試験のデータ

(適格性基準) すべての2項の(binary) アウトカムのフォレストプロット(メタ解析の結果を1つのグラフにまとめ、見やすくしたもの)を選択した。指標としてランダム化比較試験のVLEが名目上統計的な有意差 (p<0.05) を示しているもの、その効果の検証のために引き続きイベント200以上、非イベント200以上の大規模なランダム化比較試験が行われているもの、主要アウトカムの評価がされているレビューで、サブグループ解析や感度解析でないものを含んでいるもの

(結果) 8万5002のフォレストプロットデータがある3082のレビューのうち、受け入れ基準を満たしたのは44(0.05%)のみであった。指標試験は概して小規模で、症例数の中央値は99 (イベント中央値は14)であった。バイアスの低いリスクについて程度をみたのは44例の内9(20%)のみでしかなかった。
44例中43例でその後の大規模試験における相対リスクが0に近い値であった。44例の内、その後の大規模試験で19例 (43%, 95%信頼区間29-58%)が同じ方向で有意差(p<0.05)を見出すことができなかった(半数近くで結果が覆ったということ)。その後の大規模試験でも相対リスクが同じく0.2以下と非常に効果が大きかったのは25例中4例(16.0%)しかなかった。引き続く大規模試験で同じ方向で有意差を見いだせた症例でさえも、これらの介入を用いることを決定するにはさらなる主要アウトカムが考慮される必要があると考えられた。指標試験で p<0.001も用いられている場合は21例中19例で、その後の大規模試験で同じ方向の有意差が見出された。

このように、引き続く大規模臨床試験でもVLEがみられる頻度は非常にわずかなもの(vanishingly small)であった。またそうしたことがあった場合でも、再現でき実行できる益のための信頼できる目印とはならないようであった。ランダム化臨床試験において、更なる臨床試験は必要のない目印としてVLEが用いられる経験的なルールは、役に立つものではない。非常に大きな治療効果が得られている小規模試験の解釈には用心が必要であることを示していた。

なお、その後の大規模臨床試験でも結果が変わらなかったものを、参考に例示する。
妊婦ヘモグロビンに対する鉄剤、リウマトイド関節炎に対するアバタセプト(生物学的製剤)、偏頭痛に対するリザトリプタン、妊婦の細菌性vaginosis の治癒テストでの失敗に対する抗生剤、急性心循環イベントに対する硝酸剤、小児のロタウイルス下痢に対するロタリックス(RY1)ワクチンの1年間の効果、心循環全イベントに対するサイアザイド利尿剤、麻酔または鎮静時の悪心に対するオンダンセトロン、術後痛に対するロフェコキシブ、流産治療における外科的胎児摘出に対する外科処置対ミソプロストール、2型糖尿病患者における浮腫でのピオグリタゾン

薬剤師 寺岡