くすりのコラム 抗精神病薬から子どもを守ろう リスパダール ジプレキサ エビリファイ セレネース ヒルナミンほか(NEWS No.497 p08)

大人の統合失調症の治療に使われる抗精神病薬が、知的障害児の約1割に処方されていることが、 医療経済研究機構などのチームの調査で分かり、子どもへの過剰投与が明らかになりました。実際には知的障害児のみならず、「ちょっと困った」子どもにも、安易に投与されている傾向があります。

調査は、健康保険組合の加入者162万人の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを使い、 2012年4月~13年3月に知的障害と診断された患者2035人(3~17歳)について、1年間の追跡調査をしたものです。その結果、期間内に1回でも使った人は12.5%いました。

年齢別では、▽3~5歳が 3.7% ▽6~11歳が11%  ▽12~14歳が19.5% ▽15~17歳が27%で、3割以上が思春期以下で、就学前の幼児での使用もみられていました。

統合失調症患者は人口の0.3~0.7%とされ、大半に抗精神病薬が処方されますが、発症は 10代後半から30代半ばの成人が対象です。知的障害児での人口に対する割合は、統合失調症患者よりはるかに高くなっており、うちほぼ半数で年300日分以上も薬が出ていました。

チームは「大半は精神疾患がないケースとみられ、知的障害児の 自傷行為や物を破壊するなどの行動を抑制するためだけに処方されている可能性が高い」と警鐘を鳴らしています。

人間の大脳は15歳ぐらいまで成熟し続け、思春期を過ぎて大人の脳になります。特に10歳までは発達途上なので活発で興奮しやすく不安定です。我慢できずにかんしゃくを起こし、気が散って大人しくできません。それが子どもらしさでもあるのですが、大人のとらえ方によっては、どれもが問題行動となりかねません。子どもは社会の約束事や人間関係のルールを身につけていく途上にあり、自分の行動に対する親や友だち、周りの人の不快な表情や非難を察しながら失敗と反省を繰り返し、修正する試行錯誤により対処能力を獲得していくのです。

抗精神病薬は、発達途上の正常な興奮を抑え、お酒のように意識をぼんやりさせ霞がかかるため、問題行動が少なくなったように見えます。しかし試行錯誤に最も重要な、周りの状況を察する判断力を鈍らせ、経験を積む機会を奪ってしまいます。完成した大人の脳は薬を止めれば元に戻りますが、子どもでは発達途上の失われた時間は取り返せません。
「子どもの権利条約」では、子どもを管理するために、抗精神病薬を含む向精神薬の使用は「虐待」であるとしています。

入江診療所 入江