臨床薬理研・懇話会1月例会報告(NEWS No.498 p02)

シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第21回
非小細胞肺がんのファーストライン薬物治療―ペムブロリズマブ(キイトルーダ)  Keynote-024試験論文

注目の免疫チェックポイント阻害剤で、ニボルマブ(オプジーボ)が化学療法剤使用後のセカンドライン使用で全生存を延長したとして注目されました。しかし、その後ファーストライン(未治療患者)使用では失敗しました。一方類薬のペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、オプジーボが失敗したファーストライン使用の無増悪生存、全生存延長に成功し脚光を浴びており、この論文 (Keynote-024試験:  NEJM 2016;  375(19): 1823-33, オープンアクセス)をとりあげました。

本試験の特徴は、PD-L1発現が50%以上と非常に高い割合に認められる非小細胞肺がん患者を対象としたことにあります。50%のカットオフ値は、従来の伝統的な臨床試験プロセスでの「第1相試験」とは大きく異なるAdaptive ways(適応性のある手法)の臨床試験である「550例の規模の大きい第1b相試験」(Keynote-001試験)のデータにより、ペムブロリズマブに反応しやすいサブ集団として決定されました。

試験はPD-L1をがん細胞の少なくとも50%以上に発現し、EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子陰性(陽性例にはそれぞれ別の「分子標的薬」が存在するので除外)の未治療進行性NSCLC患者305症例を対象にしました。2-3週おきに10mg/kg体重を投与し、白金系化学療法剤(何を用いるかは研究者の判断)と比較しました。病態進行の際はクロスオーバーを許容しました。いずれの群においても、臨床的に安定した状況にあり、研究者が臨床的な便益を得ることができると判断した患者は、病態進行の後も治療を継続しました。プライマリーエンドポイントは無増悪生存、セカンダリーエンドポイントは全生存、客観的反応率、安全性としました。

成績は、無増悪生存中間値がペムブロリズマブ(K)群10.3か月(6.7-未達) vs 化学療法(C)群6.0か月(4.2-6.2)で、病態進行または死亡に対するハザード比は0.50 (0.37-0.68: P<0.001)でした。6か月時点での全生存の推定割合は、K群 80.2% vs C群72.4%で死亡に対するハザード比は 0.60((0.41-0.89, P=0.005)でした。反応率はK群44.8% vs C群27.8%、反応の持続中間値はK群未達(範囲1.9+から14.5+か月)vs C群6.3か月(範囲2.1+から12.6+か月)でした。化学療法群の66患者(43.7%)が病勢進行のあと、Kを受けるためにクロスオーバーしましたが、その57.6%がデータカットオフの時点でKを受け続けていました。治療に関連するグレード3, 4, 5の有害事象は、K群26.6% vs C群53.3%でした。安全性プロフィルは予想されたものであり、免疫障害系の有害事象 (間質性肺炎を含む)はC群よりもK群に多く起こり、一方血球減少症はK群よりもC群に多く起こりました。これらの成績はそれぞれの治療の作用機序に一致します。ほとんどの免疫障害系事象は1または2の重症度であり、死亡に至ったものはありませんでした。このように、PD-L1発現が少なくともがん細胞の50%の進行性NSCLC患者において、ペムブロリズマブは白金系化学療法剤と比較し、無増悪生存と全生存を有意に長く延長し、有害事象が少ない結果でした。

なお、企業は別途PD-L1発現が1%以上の未治療患者におけるペムブロリズマブと化学療法剤との比較臨床試験(Keynote-042)を行っているとのことです。米国のキイトルーダの添付文書は今回の試験成績を反映して、P指定したコンパニオン検査薬でPD-L1発現を確認して50%以上の未治療患者を対象としており、一方オプジーボにはPD-L1発現について規定はありません。日本のキイトルーダ添付文書は、効能・効果が「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」で「PD-L1を発現した腫瘍細胞が占める割合について、“臨床成績”の項の内容を熟知し、—– PD-L1の発現が確認された患者に投与すること。検査に当たっては、承認された体外診断薬を用いること」とあるのみです。ただし、厚生労働省が本剤が薬価収載される2017年2月を目標に厚生労働省が作成中の「最適使用推進ガイドライン」では、ファーストライン使用では50%以上に限定される見込みです。

寺岡からのレジメ報告のあと、林敬次さんから欧州臨床腫瘍学会(ESMO)におけるオプジーボ「CheckMate026」試験の続報(医問研ニュース496号6-7ページ参照)がなされ、オプジーボは病気が増悪(進行)している患者の生存期間が長い傾向にあることについて指摘されました。

これらを受けてのディスカッションでは、オプジーボ、キイトルーダのような免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体製剤)は、がんの病態が進んでがん細胞のPD-L1陽性率が高度になった場合に効くが、陰性や低率ではPD-L1を有する正常免疫細胞の作用を低下させるため、がんの進行を早め、自己免疫疾患を多発させる(薬のチェックTIP66号、ニボルマブ)と考えられる。しかし医薬品がこのようながんの病態が進んだ状況で効き始めて死亡までの期間を一定長くすることにどれだけの意義があるのだろうか、その間のQOL(生の質)の患者アウトカム評価はどうなっているのだろうか、などの疑問が出されています。

なお、「薬のチェックTIP」誌70号でペムブロリズマブ(キイトルーダ)を取り上げる予定とのことです。期待したいと思います。

薬剤師 寺岡