くすりのコラム 動物用医薬品 コンベニア注(セフォベシンナトリウム)(NEWS No.498 p08)

ある日、うちの猫が庭から帰ってきてヨダレをあちこちに垂らしながら、えづいていました。
しばらくすると少し血が混じったヨダレが出て急に鮮血が出始めました。
吐血と思い、私は口の周りが血だらけになった猫を動物病院に連れて行きました。

獣医さんに経過を説明したところ、レントゲンと採血をすることに同意を求められ、すがる気持ちでお願いしました。
その検査結果はなんと、「猫ちゃんは舌を噛んで出血しているようです」という単純なものでした。
どうやら噛んだ舌が歯にくっついていたのが取れた時に大出血を起こしたようでした。

その後、獣医さんから「抗生剤が必要なので処方します」と言われました。
口の中が痛い猫を取り押さえて薬を内服させるのは無理ですと獣医さんに訴えると、1回打つと効果が長期間続く注射にしましょうと言われ「はい」と答えてしまいました。

2日後猫は舌の痛みが和らぎ少しずつ水と食べ物を摂れるようになり喜んでいたところ、接種8日目に大量の嘔吐、9日目には意識朦朧でぬいぐるみのようになりました。
舌を噛んで不要な全身のレントゲン・血液検査・持続型抗生剤を受けさせてしまい後悔しました。

持続型抗生剤は私が想像していた組織移行性が高く作用が持続するタイプの薬とは違うものであることが分かりました。
セフォビシンはアジスロマシン(ジスロマック)を製造販売しているファイザーが開発した動物用セフェム系抗生物質です。ヒトには認可されていません。セフォビシンはβ-ラクタマーゼに安定で、皮下注射後に高い血中濃度を持続させることが認められています。

皮下注投与による半減期はイヌで5.5日、ネコでは6.9日と超持続性で1回の投与で2週間効果が持続します。
代謝は肝臓での代謝はほとんど受けず、複化合物として腎臓から尿中へ排泄されます。
舌を噛んだ猫は満足に水が飲めずに体内に溜まったセフォビシンにやられてしまったのでしょう。
添付文書上では適応はイヌで皮膚感染・尿路感染・歯周病、ネコで皮膚感染症と書かれていますが、保険請求がない動物病院では多くの適応外処方が行われています。
農林水産省、動物等医薬品データーベースにある副作用情報ではアナフィラキシーショックや元々腎機能低下のあったと思われる犬猫への投与が原因と思われる死亡例が数多く報告されていました。

動物用医薬品もヒト用の関連会社で製造され、同じ安全上の問題があります。
新薬の添付文書には情報がまだ十分集められておらず、簡単な用法だけで怖い副作用情報、難しい用量調整は書かれていません。
セフォビシンではAUCが2倍も違うイヌ・ネコの投与量はどちらも同じ8mg/kgが示されていました。
販売数をあげるため、使いやすい印象を与えることに主眼を置いているのです。

うちの猫は獣医さんに腎排泄型注射薬を一刻も早く排泄させたいと説明し、輸液点滴をしてもらえ元気になりました。
添付文書の不備はその企業の「命」に対する軽視を表しています。

薬剤師 小林