福島県小児甲状腺がん 放射線の影響を示す本格検査結果(NEWS No.499 p06)

東電福島原発事故後6年が経ち、福島県民調査の小児の甲状腺がんも、本格検査としての2巡目が終了した。第26回検討委員会(本年2月26日)の最新の報告にもとづいて検討した。
2巡目の対象者は事故時0~18歳および事故後1年間に生まれた県民38万人余で、平成26年と27年の2年間に実施され、1次検査判定者は27万人(70.9%)、B判定とされたうち2次検査を終えた1681人(75.5%)が細胞診検査を受け、69人が悪性あるいは悪性疑いとされた。男31人、女38人で男女比は1.23、平均年齢16.9±3.3歳(事故時5-18歳)、平均腫瘍径11.0±5.6mm(5.3-35.6mm)であった。そのうち44人は手術を終了し、全員が甲状腺がんと確定されている。
がん細胞が確認された69人について、1巡目での判定結果を下表に示す。

1巡目判定判定基準がん
A1結節やのう胞を認めない32
A25.0mm以下の結節や
20.0mm以下ののう胞を
認める
31
5.1mm以上の結節や
20.1mm以上ののう胞を
認める
5
未受診1

A1判定の32人は、1巡目がA1(異常なし)で経過観察されていた125,908人の中から見つかっている。1巡目判定後の観察期間を3年として、甲状腺がん発生率の全国平均を10万人に0.5人(国立がんセンター0~23歳)として比較して倍率を推定すると、

(32/125,908)×(10万/0.5)/3年=16.9倍となる。

同様にA2とB判定からの発生率比の推定値と95%信頼区間をポアソン分布から求め、次表に示す。

1巡目がん受診数発生率比95%信頼区間
A132125,90816.911.6 - 23.9
A231119,38817.312.1 - 24.6
51,369246.578.9 - 568.3

判定基準で1巡目に経過観察とされたA判定群から、全国平均の約17倍の明らかながんの発生があり、2次検査となるも、その時点ではがんの疑いを否定されたB判定群からは約250倍の高率で発生がみられている。特にA1判定群からの発生は、最新の高精度超音波機器により「異常を認めない」と画像診断された集団から、3年未満の観察期間で、全国平均を1桁上回るがんが多発している。高精度超音波検査は、1巡目(先行検査)で見つかった115人の甲状腺がんは多発でなく、「見つけなくてもよいものまで見つけすぎている」過剰診断によるものとの公式見解の根拠とされてきた。
チェルノブイリ事故では、放射線による小児の甲状腺がん発生は、「surprising rapidity(驚くべき速さ)」で潜伏期は4年とされてきたが、より大規模かつシステマティックで精度の高い本格検査の結果から、放射線誘発小児甲状腺がんの最小潜伏期間は3年未満であることが示唆されることになった。
以上から1巡目でがんとされた115人の子どものうち、事故直後には相当数(現時点判定率の逆算では約100人)が「異常なし」であった可能性を示す。またB判定群のがんリスクは極めて高く、汚染地域の慎重なフォローが必要である。これら本格検査の結果は、がん多発の主要因がスクリーニング効果や過剰診断ではなく、放射線によるものであることを、より明確に示すものとなっている。

入江診療所 入江