治安維持目的の精神保健福祉法「改正」は廃案しかない!(NEWS No.500 p02)

2月28日に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の一部を改正する法律案」(以下「改正」案)が閣議決定され、参議院の厚生労働委員会で11日、実質審議入りした。この「改正」案には、相模原事件が障害者に対するヘイトクライムであるという本質に向き合わず、措置入院を犯罪防止目的に変質させることで医療を治安維持のために使うという、容認しえない問題点が多数含まれる。

1. 相模原障害者殺傷事件を精神障害に結びつけることの誤り~立法事実の不在

「改正」の趣旨は「相模原市障害者支援施設大量殺傷事件と同様な事件が発生しないよう法整備を行う」とされている。しかし、2月20日に容疑者は刑事責任能力があるとの精神鑑定結果が出ている。立法事実がないにも関わらず「相模原障害者殺傷事件は精神障害によって引起こされた」と決めつけての法「改正」には全く道理がない。

2. 「措置入院者の退院支援」~「支援」に名を借りた監視体制

「改正」の概要は「措置入院者が退院後に社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な医療その他の援助を適切かつ円滑に受けることができるよう退院後支援の仕組みを整備する」とあるが、内容は退院後の監視体制づくりである。
措置入院者は、措置入院中に「退院後支援計画」をつくらなければならず、退院後は帰住先の保健所設置自治体、移転した場合は移転先の自治体が相談指導を行う。原則入院中に作成しなければならず、入院が必要以上に長引くおそれがある。 支援計画の期間も明示されていない。 本来退院後の支援はすべての精神障害者に対して行われるべきで、措置入院というだけで望まない人にまで義務づけるのは措置入院者への差別であり、支援という名の監視である。さらに自殺企図を含む自傷のおそれを要件に措置入院となった患者をも監視下に置くことになるのも重大な人権侵害だ。措置入院の解除は自傷他害のおそれがなくなったことを要件としているのに、すでに自傷他害のおそれがなくなったとして退院した者に対して、なお「再犯のおそれあり」として監視対象とすることは不当である。今回の「改正」ではどのような要件がある場合にどのような期間、監視を続けるのかも不明だ。曖昧で科学的に判定不可能な「再犯のおそれ」を根拠に、生涯にわたって監視されることになりかねないのだ。

3. 「精神障害者支援地域協議会の設置」~当事者不在・警察行政化

退院後支援計画は「精神障害者支援地域協議会」がつくるが、この代表者会議の参加者に、市町村、医療関係者、サービス事業者、障害者団体、家族会等とともに警察も入っている。警察の関与は精神障害者を犯罪予備軍とみなすもので許せない。
また同協議会の調整会議の参加者は「必要に応じて本人」とされており、本人がいなくても作成可能となっている。本人抜きでその人の生活を決めるのは不当だ。
医療は本来、精神障害者の健康の維持、回復、促進のために行うものであり、強制入院の手続法の側面をもちつつも現行精神保健福祉法は法の目的を「精神障害者の医療と保護」「精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上」としている。しかし塩崎厚労相は「改正」案の目的を「(相模原事件の)再発防止」と説明している。治療のためという法の目的が犯罪予防という治安維持に変質することになるのだ。あくまで措置入院は精神症状によって不幸にも自傷他害の行動(おそれを含む)にいたってしまった精神障害者を治療して社会復帰をめざすためのものであり、犯罪予防を目的とするのは、精神障害者と精神科医療に対する誤解と偏見を強化し、治療現場においては治療の前提である信頼関係を破壊するもので、断じて許すことができない。当事者団体や日本精神神経学会などの関係者はすでに反対声明や緊急行動を展開している。断固「改正」案の廃案を求める。

いわくら病院 梅田

<参考>
大阪精神医療人権センター ニュース134 2017年4月25日発行
大阪精神医療人権センターホームページ https://www.psy-jinken-osaka.org/
DPI(障害者インターナショナル)日本会議ブログ http://dpi.cocolog-nifty.com/
日本精神神経学会・精神保健福祉法改正に関する学会見解(2017年3月18日) https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/seishinhokenhukusi_170318.pdf