臨床薬理研・懇話会3月例会報告(NEWS No.500 p03)

シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第23回
Adaptive design(適応性のあるデザイン)臨床試験について実例を通じて検討

今回は、NEJM誌の臨床試験シリーズ(The challenging face of clinical trials)のAdaptive designs for clinical trials (1)のあらましについて学ぶとともに、実例としてあげられている COPD(慢性閉塞性肺疾患)1日1回治療剤 indacaterol (オンブレス吸入用カプセル)のseamless design(連続したデザイン)の論文(2,3)を見ていきます。

NEJM誌 2016(オープンアクセス)

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1510061
Adaptive design の臨床試験は、ランダム化比較臨床試験(RCT)の効率を増す手段として提案されました。探索的および実証的臨床試験の両者に応用可能で、有効性のある治療群に割り付けられる患者を増やし、あまり効果のない治療群に割り付けられる患者を減らす戦略です。被験者と将来の患者の利益となり、コストを減じ、その治療の真の便益を見出す効率を高めます。 nonadaptive design の臨床試験と比較し、続く実証的臨床試験の用量選択のために広範囲の用量幅を検討します。注意されるのはタイプ1のエラー(言い過ぎ)ですが、それほど大きな問題でないと書かれています。実証的臨床試験へのAdaptive trial designの応用には、1)とぎれない(シームレスな)第2-3相デザイン、2)サンプルサイズの見積もりの再判断、3)group sequential designs(sequential: 連続して起こる、順次的な)、4)母集団強化デザイン、の4つの大きなカテゴリーが存在します。このシームレスな第2-3相デザインの例としてあげられているのが、以下の(2)(3)の文献です。

(2) Pulm Pharmacol & Therap 2010; 23: 165-71.
(3) Am J Respir Crit Care Med 2010; 182: 155-62.
INHANS (The Indacaterol to Help Achieve New COPD Treatment Excellence)

吸入剤Indacaterol(COPD治療のための1日1回投与長時間作用型β2作動剤・気管支拡張剤)の適応性のある2ステージ(2-3相)の、実証的なランダム化比較試験(RCT)です。ステージ1の終わりに用量選択を実施します(上図)。

Adaptive seamless design によって、用量選択と有効性・安全性実証を結合し、同じ臨床試験(計26週)で行っています。この臨床試験は呼吸器領域で adaptive seamless phase 2/3 design を用いた最初の公表論文です。この試験では1人の患者が1ステージと2ステージでなされる治療がかわらず、このような試験はスピード、効率、フレキシビリティにおいて利益があります。

この試験が行われた時点で、販売されている長時間作用型吸入気管支拡張剤は1日1回使用の抗コリン剤チオトロピウムと1日2回使用のβ2作動剤のフォルモテロールとサルモテロールであり、この1日1回使用のβ2作動剤はまだありませんでした。ステージ1では、ステージ2での有効性・安全性のさらなる実証評価に用いるindacaterol の2用量を特定するために、プラセボと2つのアクティブ対照剤(チオトロピウムとフォルモテロール)に対する4つのindacaterol 用量の有効性・安全性を評価しました(全体で7群)。試験の第1の目的は、indacaterol とプラセボとのFEV(努力呼気肺活量)測定での効果の比較、第2の目的はindacaterolの効果がFEV測定でチオトロピウムと変わらないことの証明と介入の安全性評価です。チオトロピウムは技術的に二重遮蔽ができずオープンで行われています。

研究者と患者には遮蔽が保たれたまま、試験モニター委員会と独立統計家の両者であらかじめ計画された中間解析が行われました。独立統計家は中間解析のすべての分析に責任をもちます。中間解析は群あたり最低110人(全体では770人)の被験者が最低2週間の治療を終了した時点で行われました。14日後の時点で中間解析し、Indacaterol最小有効量(150㎍) とその一つ上の有効量(300㎍)が選ばれ、この2群の患者について症例数増加のための新たなリクルートが行われました。この2群とチオトロピウムとプラセボの計4群が26週まで継続されました。第1ステージでは801人の患者が評価され、indacaterol 150㎍ が最低有効量であり、安全性では問題がありませんでした。第2ステージでは4治療群に合計1683人の患者が割り付けられています。結果は、indacaterol 2群はともにプラセボよりすぐれ、チオトロピウムに対し非劣性でした。

例会のディスカッションでは、遮蔽が保たれたまま中間解析がなされ、遮蔽は試験モニター委員会とすべての分析に責任をもつ独立統計家が二重に保証する形だが、これらはともに同じ製薬企業が資金を出して依頼しているので不安があるとの声がありました。Adaptive design は有用な方法のようで注目していく必要があるが、対象患者集団が変わっていくので統計的な扱いがむつかしいのでないか、悪用されないかなど監視の必要もあるのでないかとの声もありました。

薬剤師 寺岡