くすりのコラム 技術革新で害は防げるのか?(NEWS No.500 p08)

薬によって皮膚粘膜眼症候群になった患者さんが医療関係者に自身の身の上を話すことがいかに困難であるか話してくれたことがあります。責められたと勘違いして怒り出す医療従事者もいるし、もう薬なんて飲みたくないと思っても医療を受け続けなければならない体になってしまい弱い立場にあることなど…薬剤師は薬の「害」を最も知らない存在なのかもしれません。患者さんは、『お薬をもらったときに「高熱、目の充血、粘膜のただれ…の時はすぐ服用中止して下さい」の一言があればこうはなってなかったって思うんです』と話してくれました。

厚生労働省は皮膚障害(スティーブンス・ ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群,SJS)及び中毒性表皮壊死症(TEN)),横紋筋融解症,間質性肺疾患の有害事象発症患者のゲノム試料や臨床情報を収集解析し報告しています。高尿酸血症治療薬アロプリノールもその1つで、添付文書にも漢民族を対象としたレトロスペクティ ブな研究において、アロプリノールによるTEN及びSJS等の重症薬疹発症例のHLA型を解析した結果、51例中全ての症例がHLA-B*5801保有者であったとの報告があると書かれています。

厚生労働省が発行している医薬品・医療機器等安全性情報によると次のように書かれています。
解熱鎮痛薬誘因性SJS/TEN  風邪症状に解熱鎮痛薬を用いて重症眼障害を伴うSJS/TENを発症した患者の解析で, HLA-A*02:06 及び HLA-B*44:03 との有意な関連(それぞれオッズ比5.18及び4.22)が見出された。なお,日本人に おける HLA-A*02:06 及び HLA-B*44:03 の保有率は,共に約14%である。なお,収集した試料の症例報告書に記載の眼粘膜障害事例に関する解析で,偽膜形成,あるいは角膜 上皮のびらん又は欠損以上の重症眼障害例を有意に発症しやすい被疑薬として,アセトアミノフェンが 示され(オッズ比3.27),さらにアセトアミノフェンを風邪症状以外に投薬した場合に比して,風邪症状に用いた場合,重症眼粘膜障害の割合が有意に高い(オッズ比13.0)という結果を得た。

HLA型を簡単に調べることはできないため、患者さん個人に合わせて重点的にリスク情報を薬剤師として提供することはできません。ゲノム研究が進んでも、命にかかわる重大な有害事象は社会全体で情報共有することが大事です。上記にあるアセトアミノフェンは広く市販薬に含まれているため発症しやすい被疑薬となったと考えられます。セルフメディケーションを推進する厚生労働省は製薬会社の市販薬は「安全で有効」、伝えたくないことは「医師・薬剤師に相談してください」という身勝手なTVCMを放置しています。薬の害を減らすため未来に向けた研究を行う前に市販薬TVCMに映像を交えたSJS/TEN症状の注意喚起を入れるべきです。