臨床薬理研・懇話会5月例会報告(NEWS No.502 p02)

シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第25回
ICH–GCP が大幅刷新へ 関連話題「特定臨床研究」の新設

今回は「臨床薬理論文を批判的に読む」のシリーズタイトルからは少し離れますが、臨床試験の被験者保護(倫理性)と品質確保(科学性)のための国際基準であるICH-GCPが大幅に刷新されるという、知っておくべき大きな動きがあり紹介します。併せて、このことにも関連して臨床研究法案が2017年4月に成立、「特定臨床研究」という新たな区分が新設されましたので話題提供します。
ICH Reflection on “GCP Renovation”: Modernization of ICH E8 and Subsequent Renovation of ICH E6. January 2017.
小宮山靖. GCP刷新(GCP Renovation)のインパクト. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス誌2017年5月号.
いずれもオープンアクセス。

ICH-GCP刷新

ICH-GCPガイドライン[E6(R2)]が2016年11月ステップ4合意(ガイドラインの最終化)されました。長く用いられてきたガイドラインの本文はそのままで、追補でデータ収集の電磁記録化を踏まえ臨床試験実施の効率を高めるという観点を追加、また品質マネジメントシステムの実装をスポンサー(日本では治験依頼者)に求めています。後者では、臨床試験の質の確保に用いる方法は試験に内在するリスクに応じたものとし、また収集する情報の重要性に応じたものでなければならないとも記載されています。
ICHではこの後すぐICH-GCPの抜本的刷新に取り組んでいます。現在のガイドラインには、例えばはじめて人に用いられる未承認薬とすでに承認を受けている医薬品とでは、それらを用いた被験者のリスクが当然異なりますが、そうした臨床試験の多様性に対応していないという欠陥があります。やっと是正に動き出したもので、ICH本部はすでに刷新の方向性を記述した上記のリフレクションペーパーについて、2017年1月から3月11日までパブリックコメントを実施済みです。
目標は、1) 臨床試験と2) データソースとの「多様性」に対応した適切でフレキシブルなガイダンスです。患者保護とデータの質は引き続き保持されます。また、対象範囲がアカデミアの行う臨床研究などに広げられます。医薬品承認を支えるランダム化比較試験に求めるリソースとコストのレベルを、そのままアカデミアの臨床研究に求めるのでなく多様性に応じたものとします。
手順としては、E8ガイドライン(臨床試験の一般指針)を更新し、次いでE6ガイドライン(GCP)を更新します。これらに関連してE19ガイドライン(安全性データの収集の最適化)も更新します。

臨床研究法案成立と「特定臨床研究」新設

ディオバンの研究不正を受けて臨床研究法案が2017年4月7日に、全会一致で可決成立しました。
法案では、主な対象となる臨床研究として新たに「特定臨床研究」を定めました。これには1) リスクが高い「未承認医薬品等または適応外医薬品等を用いる臨床研究」と、2)「医薬品等製造販売業者等から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究」の2つが該当します。
法案審議での付帯決議は次の2項を含んでいます。1) 臨床試験実施基準の策定に当たっては、ICH-GCPやGMPに準拠することにより、臨床研究の一層の信頼の確保に努めるとともに、国際的な規制との整合性を確保し、国際的な共同研究・共同治験の一層の推進に向けて取り組むこと、2)医薬品、医療機器等の開発を推進するため、治験と臨床研究の制度区分と活用方向を明確化して、臨床研究を促進するとともに、臨床研究で得られた情報を、医薬品、医療機器等の承認申請に係る資料として利活用できる仕組みについて速やかに検討すること。
法案では、特定臨床研究を実施するものは「臨床試験実施基準」に従って実施しなければならないとしており、「認定臨床研究審査委員会」が設置されます。実施基準や審査委員会については1年以内に厚労省が定めます。特定臨床研究がICH-GCPに準拠して行われ、承認申請で活用できるものとなるかはこの「臨床試験実施基準」の内容次第で重要です。
ディスカッションでは今後1年間の動きを注視していくこと、また最近話題となっている承認申請へのリアルワールドデータ利用をめぐる動きにも注意注意していくことが話し合われました。

薬剤師 寺岡