文献紹介:遺伝的影響のレビュー 全ての形態異常は10mSvで2倍になる(NEWS No.502 p05)

問研ニュース第499号で、本年1月米国の核医学・分子イメージング(NMMI)学会雑誌に公表されたJ.A.Siegelらの論文の主題に対する批判点を挙げました。彼らは、画像診断レベルでの線量(100mGy未満)での発がん性を示す、信頼しうる証拠はないと主張し、放射線障害での線量蓄積性を否定、また彼ら自身が「仮説」として否定しているLSS(原爆被爆者の寿命調査)データを「いいとこ取り」で利用して、低線量では、大人より子どもの方が放射線への感受性が高いことはないと主張しています。
一方、ICRPの放射線防護基準勧告の中心的根拠であるLSSデータの問題点を疫学的知見から示す文献があります。低線量被ばくを受けた集団を対象とした遺伝疾患調査をまとめた(レビューした)論文が、2016年1月に公表されていました。ECRR(欧州放射線リスク委員会)のバスビー氏、プフルークバイル氏と共に、インゲ・シュミット・フォイヤハーケ氏を筆頭著者として公表された「放射線による遺伝へのリスク:低線量に関する論争で無視されている問題」と題した論説です。以下に要約を紹介します。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)と国際放射線防護委員会(ICRP)の承認を得て、電離放射線暴露に伴う人間での遺伝性疾患は、非常に低い発生リスクであると一般には広まっている。この評価は、マウスでの実験に基づいている。日本の被ばく者では影響が無かったと伝えられているためである。この評価の正確性と科学的妥当性の調査を目的としている。
方法としては、電離放射線暴露後の遺伝的影響に関して公表されたevidence(証拠)をレビューした。限定はしていないが、とりわけ、チェルノブイリ原発事故や大気圏内核実験での放射性降下物(死の灰)による汚染を受けた住民を対象とした。(ヨーロッパ3調査・ベラルーシ6調査・ウクライナ3調査・トルコ4調査・ブルガリア2調査・ドイツ5調査) (職業被ばくを受けた男性の子供に関して10調査) 両親の被ばく後に観察された早期死亡、先天性形態異常、ダウン症候群、がん及びその他の遺伝的影響についての調査結果を編集した。また日本の被ばく者調査結果をより精密に調査もして、その科学的妥当性を論議した。

結果として、殆ど全てのタイプの先天性障害が、1から10mSvの低線量で認められた。周産期疫学での生物学的機序および線量と反応(effect)が直線関係との想定に基づくと、これらの知見が、現在通用しているリスク評価(current risk)と一致しないと我々は論ずる。証拠(evidence)は、線量反応関係が直線的でなく、2相性あるいは(豚の背に似た)上に凸で、10mSv以上では大部分が最高値そして下降することを支持している。
放射線による遺伝的影響について、現在広まっているリスクモデルは安全ではないと我々は結論する。線量反応関係は、最小線量で最大の反応を呈する非直線的なものである。チェルノブイリのデータを使って、我々は、全ての形態異常での過剰相対リスクは積算線量10mSvあたり1.0を引き出した。(即ち、リスクは2倍になる) 日本の原爆被爆者の疫学的調査の安全性は、対照群の選定での誤り、内部被曝影響をなおざりにしたこと、直線的線量反応とする想定により、科学的にも倫理哲学的にも疑わしいとの論議がある。

各調査結果の1年あたりの概算被ばく線量値をみても、福島での避難指示解除基準の50mSv未満/年の線量は非倫理的政策だと怒りを抱きます。

伊集院