事実上、18倍の甲状腺がん多発を認めた 「山下俊一論文」(NEWS No.502 p06)

甲状腺がん増加の程度について、津田敏秀氏らのEpidemiology論文は、福島県での発見率は、日本の全国平均の30倍としました。この計算は、「有病期間」(この場合は、エコー検診による発見から症状発現時期)を4年間としています。すなわち、「発見率/全国罹患率(120)÷4=30」です。

甲状腺がんの多発を認めたくない原発村の「学者」達は、多発でなくずっと後に症状が出て全国統計に現れるがんや消滅してしまうがんをエコーで見つけてしまった「スクリーニング効果」だと言っています。それは「有病期間+α」ということになります。そうすると、福島での発見率は全国平均罹患率の120倍ですから、「スクリーニング効果」で120倍もの余分のがんが発見されていることになります。

私がデータを収集して初めて証明した(医問研ニュース2013年7月)ように、この福島での多発を「スクリーニング効果」で説明するのは、チェルノブイリ事故後、I131消滅後に妊娠した子ども達や低線量地域では、数万人の検診でも一人も見つかっていないという事実と相容れません。

しかし、「スクリーニング効果」はある程度あることも事実です。それではどの程度かというと、山下氏らの「スクリーニング効果説」によれば、前述したように「スクリーニング効果」は120倍ということになります。

ところが、原発村の山下俊一氏が「医学のあゆみ」論文1)で、最近のロシアでの研究では「スクリーニング効果」は6.7倍であったと書いていたのです。引用されているのはIvanovが筆頭著者の論文です。さっそく、PubMedで検索しましたがヒットしません。仕方がないので日本医師会の図書館に発注して手に入れました。しかし、偶然Google検索をしてみると見つかりました2)

その論文は、本文はロシア語でしたが、英語の要約がついていました。(本文のGoogleで英訳をしたのですが、まだ読めていません。また、この計算がどれほど正確なのかは私には評価できません。)6.7倍というのは18歳未満で、18歳以上はたった1.5倍です。しかも6.7というのは、1991年から1995年までのデータで、以後はその半分と書いています。山下氏は彼らにとって最も都合のよい6.7という数字だけを紹介しているのです。
とは言え、この6.7という数字は重大な意味を持ちます。スクリーニング効果が6.7であれば、全国罹患率の120倍の発見率の意味するところは、福島県の甲状腺がんは120÷6.7=18で、全国罹患率の18倍発生していることを意味します。

山下氏が同じ論文で書いている、福島県県民健康調査で発見される異常に多数の甲状腺がんは「スクリーニング効果」だという論旨は、彼が紹介している「スクリーニング効果=6.7倍」によって完全に否定されているのです。

はやし小児科 林

1) 山下俊一、医学のあゆみ2017;260:
2)http://www.radiation-and-risk.com/en/year2016-en/issue2