くすりのコラム 自殺の原因(NEWS No.503 p08)

このところ中高生の自殺の報道が後を絶ちません。自筆の遺書しかいじめを訴える手段がないのかと思わせるニュースをみると、WHOの「PREVENTING SUICIDE A RESOURCE FOR MEDIA PROFESSIONALS」に書かれた自殺予防のための報道の手引きが守られているとは思えません。
自殺未遂でケガしたり後遺症の残った「生きている子供たち」は存在しないのでしょうか?いじめを克服して生きている子供たちはいないのでしょうか?

●写真や遺書を公開しない。
●具体的な自殺方法詳細に報告しない。
●自殺理由を単純化しない。
●自殺を賞賛したりセンセーショナルにしたりしない。
●宗教的または文化的固定観念を使用しない。
●責任を何か(誰か)に割付しない。

そこに書かれている、これらの禁止項目をマスメディアは破り、学校現場だけが自殺の原因と思わせる報道がされています。現在のマスメディアの報道のあり方が自殺へ導いているように見えます。では自分には関係ないのでしょうか?

抗うつ薬の自殺企図、念慮は何度も注意喚起されていますが、抗菌薬で自殺リスクが高まることについては知られていません。薬剤師として今まで1度も患者さんに抗菌剤の自殺リスクを説明したことがありません。「キノロン抗生物質と自殺行動:世界保健機関の副作用データベースの分析と潜在的メカニズムの議論」PSYCHOPHARMACOLOGY, 233, 2503-2511, 2016 はキノロンの使用が自殺行動などの精神医学的有害反応のリスクを増加させる可能性があることからWHOの個別症例安全性報告書(ICSR)データベースであるVigiBaseから他の抗生物質と比較して、自殺行動の報告とキノロンへの暴露との関連性を調べたものです。結果は「1970年12月から2015年1月までに、992,097件の抗生物質関連有害反応が確認されました。そのうち608件は自殺の97件を含むキノロン関連の自殺行動であった。他の抗生物質と比較して、自殺行動(調整報告オッズ比[ROR] 2.78,95%CI 2.51-3.08)のキノロンの報告が増加した。」とあります。この薬を服用していた場合、自殺した本人に自覚がなくても抗菌薬がきっかけで自殺したのかもしれません。

WHOは自殺は決して1つの要因または出来事から生じる結果ではないと書いています。自殺の危険が高い人に親身に関わるとしがみつくように依存されることがあります。昼夜を問わず何日も電話で相談されたとき24時間あなたは機嫌よく話をきいてあげられますか?友人が自殺した知人は、時間がなくて「後で電話掛け直すね。」が最後の言葉になったと後悔し続けています。文部科学省は「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」のマニュアル、厚生労働省は自殺対策、予防啓発などさまざまな取り組みを行っています。一人一人が正しい自殺予防の知識をもつことがとても大事です。

薬剤師 小林