臨床薬理研・懇話会7月例会報告(NEWS No.504 p02)

臨床薬理研・懇話会7月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第27回
「Real World DataでFDAが承認した」 uridine triacetateの臨床文献

Real World Data(RWD)の新薬承認への活用方向が論議されています。今回は、Pink Sheet誌2017年6月21日号が、Real World Dataで販売承認された新薬の1つとしてあげているuridine triacetate (Vistogard) の臨床文献をとりあげます

Wen Wee Ma et al. Emergency use of uridine triacetate for the prevention and treatment of life‐threatening 5‐fluorouracil and capecitabine toxicity. Cancer 2017; 123: 345-56. (Open access)
5-Fluorouracil / capecitabineの、過量投与事故などによる致死的なアウトカムがしばしば問題となっていました。uridine triacetateはこのような場合の緊急治療解毒剤で、オーファン指定されています。

今回は、既存の解毒剤が存在せず、best support care の生存率が極めて低い中で、ランダム化比較試験は困難として、実薬単独での臨床アウトカムがhistorical case cohort でのアウトカムと比較されました。データによればこれまでの生存率は16%程度に過ぎなかったのが、今回の緊急解毒剤の使用で94%の生存率となっています(Figure 2)。

1) 既存の解毒剤が存在しない、2) best support care の生存率が極めて低い(16%)なかで、確かにRCT(ランダム化比較試験)の実施には困難があり、治験薬の有効性の高さが際立っている特殊なケースとみられます。しかし、このようなケースは非常にまれで、大規模なRCTを行っても対照のbest support careと明白な有意差を出すのに苦労しているのも現実です。今回の臨床試験成績には納得できても、RWDデータがRCTの対照群やランダム化を不要にできるかはさらなる検討が必要であり、対照群やランダム化を避けようとする動きには引き続き警戒していこうと話し合われました。

また、この臨床論文には別個の問題点があります。著者たちは今回の臨床研究をopen-label clinical studiesと書いていますが、実際は米国のexpanded access program (EAP)のもとで行っています。
EAPは、臨床試験に参加できない命を脅かされるなどの患者に、倫理的人道的な観点から設けられたcompassionate use (CU)と呼ばれる例外的供給のプログラムです。RCTではなくとも、EAP/CUでなく臨床試験(CT)として行うのが本筋です。

このEAP/CUとCTとの関係は、臨床試験をめぐる重要なトピックの1つでもありますので、来月の例会で引き続き批判的にテーマとして取り上げます。

薬剤師 寺岡