ワクチンと乳児突然死症候群の関連 ―その2―(NEWS No.504 p06)

前回に続き、症例対照研究でワクチンと乳児突然死症候群SIDSの関連を検討します。この研究方法を少し説明します。SIDSですと、まずその症例を集めます。次に、年齢、性など、研究目的を考慮した項目ができるだけ一致する、SIDSでない対照を選出します。そして、様々な項目でSIDS群と対照群を比較します。この方法は、SIDSとうつぶせ睡眠との関連を明らにし、SIDS激減に決定的な役割を果たしました。

ワクチンとの関連を調べる場合は、ワクチン接種履歴を調査してSIDS群と対照群を比較します。例えば、SIDSのワクチン接種歴が80%、対照では10%とすると、ワクチンはSIDSを増やす可能性が高く、%が逆だとワクチンがSIDSを減らす可能性を示します。

この方法の弱点は、検討する病気群と対照群を同じにできないことです。その点でランダム化比較試験より正確度はずっと低下します。ワクチンの研究では「健康ワクチン効果」で両群に差がでます。これは、ワクチンは熱や急性の病気があれば接種しなく、健康と思える人に接種することが関連します。ただ、SIDSに影響を与える健康状態は大変よく研究されており、その補正が相当可能と思われます。例えば、ワクチンは社会経済的弱者の接種率は低いことがあるとされています。SIDSは喫煙や部屋の狭さと関連する添い寝とも関連しますので、それも補正しなければなりません。

さて前回は、パブメドで[vaccine and sudden infant death and case control study]で検索して、20件ヒットしたこと、症例対照試験6件、3症例研究の見直し1件、レビュー2件がヒットしたことを報告しました。

まず、レビューを紹介します。1996年にスペインでDPT接種後にSIDSとなった5人が報告されたので、それ契機に世界の研究のレビューをしています。4論文を集めていますが、うち3論文は、2007年のドイツで行った9論文のレビューでも採用されていますので後者を紹介します。

これは、2006年までの論文を集めています。ワクチンはDPTのみが4、他はDPT+B型肝炎、Hib、ポリオなどです。結論は、9試験全体のunivariate analysisでは、オッズ比0.58(95%信頼区間=0.46,0.73)で、SIDSに強く関連する要因も含めての分析であるmultibariate analysisでは、オッズ比0.54(95%信頼区間=0.39-0.76)で、ワクチン群はSIDSがコントロールの約半分で、ワクチンをした方がSIDSは少なくなる可能性を示した結論です。

著者たちは、この研究の「限界」を次のように書いています。第一に、集められたデータは「先進国」での報告で、最高のSIDS予防法「上向け寝」キャンペーン前後のデータを含むこと。第二に、SIDSの診断方法にばらつきがある、ワクチンの接種歴が臨床記録や親の報告によるものなどがある。その結果、univariate analysisでは、Heterogeneity(結果のばらつき)が統計的有意であった。しかし、multibariate analysisでは、それはなかった。
この筆頭著者は、サノフィーパスツールMSD,やグラクソスミスクラインからの資金提供と多少関連する仕事もしていたとのことでタミフルのKaiser 2003のレビューと同様に注意は必要です。採用した試験の数字はそのままなので、あまり細工はできないと思われますが、このレビューに疑いがあれば、採用した全ての論文の検討と、その生データの開示が必要です。

また、このレビュー論文の現時点での限界は、2006年までの論文を集めていることです。その後にも、同じテーマでの論文が出ていますので、その検討も必要です。

はやし小児科 林