くすりのコラム 経口補水液(NEWS No.504 p08)

高齢の男性患者さんが重そうな袋を提げていたので、どうしたのか聞いてみました。「医者が脱水になってからでは遅いから薬局で売っているOS-1を買って飲みなさいと言うから買ってきたんや。なんぼでもいいから脱水になる前に飲みなさいと言ってたけど5本しか重くて持てんからなあ」と教えてくれました。確かにやせ型で少し食事量の落ちた高齢者は脱水の危険が高く注意喚起は必要です。しかし、この患者さんは「汗なんかかかんよ、暑いのは嫌いだからクーラーつけて夏は家で大人しくしている」と言います。脱水状態でないときは塩辛くて飲めない飲み物ですよと説明しながら私は熱中症対策の難しさを感じました。
OS-1は、経口補水液で軽度から中等度の脱水状態の「病者用食品」とメーカーは解説しています。また感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を伴う脱水状態、高齢者の経口摂取不足による脱水状態、過度の発汗による脱水状態等に適していると書かれています。激しい運動による発汗は水分とともにミネラル(ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなど)や乳酸塩、尿素が失われます。下痢嘔吐時では重炭酸ソーダ・塩化ナトリウムなどが水分とともに失われます。経口補水液は発展途上国での乳幼児のコレラによる脱水症の予防や治療のためにWHOが開発したもので、小腸で Naとブドウ糖は1:1で吸収されることから同様の組成で作られています。スポーツドリンクは塩分を抑え糖を多くして血漿浸透圧と等張にしているため糖分を多く含みます。昆布茶や味噌汁などもミネラル、塩分が 豊富に含まれているため熱中症の予防に有効と考えられています。
日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2015年には「日本救急医学会熱中症に関する委員会が行った Heatstroke STUDY2006から、血中Naの異常を示す例は525例中6%に認められ、2%が高Na血症(日常生活中の高齢者)、4%が低Na血症(中壮年の肉体労働者)であった 。熱中症では水分とともに Naなど電解質の喪失があるので、Na欠乏性脱水が 主な病態であり水分の補給に加えて適切な電解質の 補給が重要である。」と書かれています。ここからも、日常生活(非労作性)熱中症と労作性熱中症では病態が異なることがわかります。また非労作性熱中症は治療で改善せず重症化するケースが多いことも報告されています。
一方で日本高血圧学会が「夏の日常生活における水分と塩分摂取について:熱中症予防と高血圧管理の観点から」と題し一般向けに出している情報には日本人の食塩摂取量は平均10g/日以上と多く、必要量をはるかに超えています。高血圧の人は原則夏場でも塩分は制限すべきで、食塩摂取は1日6g未満が望まれます。但し、発汗の多い場合には水分とともに少量の塩分とミネラルを補給するよう書かれています。
高血圧でゲートボールが趣味の患者さん、糖尿病で医師から運動を勧められているけど怒られるから嫌だと言えない患者さん、汗かくのが大好きでわざわざ暑いところでタバコ吸ってる患者さん、暑さを感じないから暑さに強いのだと豪語する患者さん(一番怖いかも)、皆さんそれぞれ違って個性的です。熱中症対策もそれぞれ違って当然です。とにかく早く涼しくなって欲しいですね。

薬剤師 小林