「発達障害への気づきは子どもたちの生活を豊かにしたのか?」医問研ニュース500号記念シンポジウム発表者報告その2(NEWS No.508 p04)

2012年の文部科学省の調査によると、全国の公立小・中学校の通常学級にADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)、高機能自閉症などの発達障害の可能性のある生徒は6.5%在籍しており、この割合は過去10年間で増加傾向です。

今回の発表ではADHDを中心にお話させていただきました。上記の調査では、ADHDの子どもは3.1%と報告されています。発達障害全体だけでなく、ADHDについても増加傾向です。この増加傾向は日本だけではなく、先進国でも同様に認めます。

ADHDの真の(絶対的な)増加要因として低出生体重児の増加、タバコやアルコールなどの子宮内での薬物の暴露、未熟児に対する治療的介入としてのステロイド使用などがあります。しかしこれらの真の増加要因のみでは、近年のこれほどの多くの増加を説明することはできません。

偽の(外的な要因により、見かけ上増えたように見える)増加要因として診断基準が改訂されるたびにその障害と診断される範囲が広くなってきていること、2007年にコンサータ、2009年にストラテラが発売されたが、それらの販売促進のための製薬企業の宣伝の影響、2005年に発達障害者支援法が施行され、その結果、各都道府県に発達障害者支援センターが設置されたことや発達障害の早期発見のための5歳児健診が開始されたこと、2007年から特別支援教育が開始されたことなどによる増加が大きいだろうと思います。

海外での疫学研究からはADHDの診断率の差は地域(国)によって0.5%から最大26%までの開きがあるといわれています。ADHDと診断されるかどうかは、その子どもが所属する社会や文化に大きな影響を受けるのです。集団生活のなかで他の子と同じように過ごすことが強要されたり、学校での態度や成績が重視される社会では、子どもの逸脱行動は許容できなくなるため、ADHDの診断率は上がるのです。一方で子どもの行動に寛容な地域では診断される機会は少なくなるのです。
日本においても、これまでであれば学校や地域で解決されてきた子どもの問題行動が、社会の中で許容できなくなってきているように思います。そしてこれらを大人の都合の良いように薬などによってコントロールしようとすることが文化として形成されつつあるように思います。それは社会の隠れた問題をマスクすることにもなります。子どもの背景にあるものを理解する努力を怠れば、子どもの様々な問題行動の医療化と、薬への過剰な期待や依存におちいりかねない危険をはらんでいます。
会場からの質疑応答ではワクチン摂取による自閉症の増加という問題もあること、曖昧な疾患概念である自閉症スペクトラムやADHDに対して実際にはどのように診断の説明などされているのか?などがありました。

児童精神科 清水誠