「放射線による健康影響 ゼロ」の繰り返しは 安全・安心になるか(NEWS No.509 p07)

今年は福島原発事故から7年目を迎える。放射能汚染による健康被害が明らかになってきている。しかし、事故を起こした国や原子力村は一切認めようとしない。特に「先天異常・胎児への影響」は、「福島で子どもを産めない」などの風評を煽るものとタブー視し、昨年の日本学術会議報告でも「影響なし」と断言している。

しかしチェルノブイリ原発事故で、放射線の胎児への影響について、人類史上偶然ともいえる貴重な疫学調査が隣国のベラルーシで行われた。国立の研究所による先天異常登録制度が事故7年前から運用され、事故直後を含めた年次推移が記録されている。広島長崎のように放射能汚染が起こって数年後から調査が始まったのではない。

この結果はナショナルレポートとして公的に報告されているが、国際原子力村(IAEA,WHO,UNSCEARなど)は無視し続けている。

調査では、事故前に1000人の赤ちゃんのうち4人にみられていた先天異常が、事故直後の高汚染地域で8人に増加、低汚染地域に比べ2倍のリスク上昇が観察された。胎児へのリスクは明らかにあるのだ。

事故のない自然の状態でも1000人に4人は先天異常がみられ、996人が無事に生まれていることに不安をもっている人は少ない。放射能の汚染で4人が過剰に増加するが、992人が無事に生まれることは、誰もが「子どもが産めなくなる」ようなものだろうか。不安があれば、過剰になる4人を3人に、2人にと少しでも減らすよう、ホットスポットには近づかない、食べ物のベクレルを減らすなど、個々人の日々の努力により安全・安心が得られるだろう。そのためにも正しくリスクを伝えなくてはならない。

「放射線による健康影響ゼロ」を声高に叫ぶ原子力村は何をしているか。2016年秋に福島の県立高校の「スーパーサイエンス部」の生徒が、18歳未満で初めて事故現場をマスクも防護服も着けずにバスツアーで見学に訪れた。

引率した東大名誉教授早野龍五氏は誇らしげに「放射能に向き合う若者」を称え、NHKはじめマスコミは大々的に全国報道した。

もし高校生たちに正しくリスクが伝えられていれば、どれだけの若者が自主的に判断して参加したであろう。

これは、福島の子どもたちだけの問題ではない。家族の安全を願いながら悩んでいる避難者、甲状腺がんなど健康障害を受けている被害者、放射能汚染で生活を破壊された被災者、放射能の影響に不安を感じている人々すべてに向けられている。

福島の子どもたちは、原子力村による現代の人身御供(ひとみごくう)といえる。

入江診療所 入江