高橋晄正文庫(NEWS No.509 p08)

私は、日本の臨床医学に科学を最も徹底的に持ち込もうとしたのは、高橋晄正先生であると考えています。特に、効きもしない「薬」でぼろ儲けをしてきた製薬企業とその手足として動く大学や学会に対する闘いがいかに鋭かったのかは、かつて私達が「日本臨床薬理学会」で「全般改善度」の批判をし、高橋先生のことを書いたパンフレットを配布していると、「まだ生きているのか?」などと、憎々しげにどなった学会幹部らしい人の反応に現れています。

私が高橋先生に最初にお会いしたのは、「注射による筋短縮症」の会議だったと思います。「奇病」などとして隠され続けていたこの薬害の原因が筋肉注射であることを疫学的に証明したのは高橋先生でした。私の師匠宮田雄祐氏は、注射が原因であるという疫学結果を動物実験で病理学的に証明するよう私に命じました。

当時の医療内容に対する大学内外からの批判は東大闘争などの始まりとなる医学部闘争に発展しました。しかし、大部分の医者は医学に科学を持ち込むことができず、「自然に帰る」とか「漢方薬」「東洋医学」に頼り、「非科学」を「非科学」で批判するような状況になりました。その中で、一貫して科学性を対置してきたのが高橋先生でした。

それができたのは、先生の座右の銘「不合理への嫌悪」という強固な意志と、科学性を保証する世界最新の疫学と統計学に精通しておられたことだと思います。これらの科学からもたらされた、自然科学・医学での世界観(私は先生の本の内容から弁証法だと思っていますが)だと思っています。学生のころから読んだ高橋先生の本から医者として何をするかの方向性に大きな影響を与えられましたが、特に全般改善度批判活動から現在のインフルエンザワクチン評価方法まで、先生の一般向けの本から当面する課題の解決方法を教えてもらいました。

学会・大学の包囲網の中で一歩もひるまず、生涯闘い続けた先生の著書からは、現在も多くのことを学ぶことができます。

それらの図書の相当数は高橋先生に頂き、特に雑誌「薬のひろば」は極一部を除き所蔵していました。昨年の夏、秋田県立図書館にほぼ全部が収蔵されている先生の著書、特に初期の推計学や多変量解析の教科書を見てきました。それから、これらを手元に置いて、行き詰ったときの指針にしたいと思い、アマゾンなどで探したところ極一部を除いて購入することができました。
現在、整理中ですが、主な著書はほとんど集めることができています。それらをまとめて医問研事務所に置きました。

「高橋晄正先生文庫」としてまとめていますので、秋田に行かなくてもたいていの本は見ていただきます。ぜひ、皆さんにもご利用していただきたいものです。

近々、目録を作成し、皆さんにお知らせすることを予定しています。

はやし小児科 林