臨床薬理研・懇話会1月例会報告(NEWS No.510 p02)

臨床薬理研・懇話会1月例会報告
シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第33回
安定狭心症に頻用されるPCI は有効か:シャム手技(プラセボ)対照を置く重要性

今回はランダム化比較試験(RCT)の注目される内容の論文がランセット誌に載りましたので取り上げます。シャム手技(プラセボ)対照を置く重要性を示す論文です。
Al-Lamee R et al. Percutaneous coronary intervention in stable angina (ORBITA): a double-blind, randomised controlled trial Lancet on line 2017年11月2日

安定性狭心症におけるPCI (経皮的冠動脈インターベンション)は40年の歴史をもち、世界で年間50万回以上行われており、ガイドラインがファーストライン治療として推奨しています。しかし2007年のCOURAGE試験が、冠動脈に有意な狭窄があるというだけでは、至適薬物療法にPCIを上乗せしても利益の上乗せは小さく、6-24か月で利益がみられなくなることを示したことでその有効性について論議がありました。この論文はPCIの効果をプラセボ(シャム手技)と比較した初めての二重遮蔽(患者、術後に患者に接触する医師) RCT論文です。primary endpointのPCI手技6週間後の運動耐容能に群間差はみられず、secondary endpointとした8つの指標でも群間差がみられたのは1つ(ドブタミン薬物ストレス負荷テスト)のみでした。

著者たちは、侵襲的介入の効果は、薬物治療では標準的になされているようにプラセボ(シャム手技)対照をおいて評価すべきであると結論しています。
登録された患者全員に心臓カテーテル検査を行い、冠動脈造影と圧ワイヤーによる心筋虚血の程度を評価したうえで、自動オンラインランダム化ツールSRUB(Imperial College London)を用いてPCI群またはシャム手技群にランダム割り付けをしています。患者は手技台の上に15分以上静置し、狭窄は広げず手技を終えました。患者は音楽を流すヘッドホンを装着し、鎮静剤(ベンゾジアゼピンとopiates)で鎮静が確立した後ランダム化を行い、手技中もヘッドホン装着は続けました。PCI群に割り付けられた患者には必要に応じ薬物溶出ステントを使用し、手技に関与した医師は6週間の追跡期間中に患者と接触しないなど念入りなブラインド化がなされました。

この論文はLancet誌が同時発表した論説のタイトルが「安定狭心症へのPCIを葬り去る最後の一撃か?」であり、すべての循環器疾患のガイドラインで狭心症に対するPCIの勧告をダウングレードする必要があると指摘しているように、注目をあびています。論文の著者たち自身は、シャム手技(プラセボ)を置く重要性を強調し、PCIの有用性に関しては「今回のORBITAの所見は患者がPCIを決してすべきでないことを意味しない」と述べ、例えば試験の受け入れ基準をinvasive coronary pressure measurement に従って制限するなどの試験実施すれば別の結果となるかは未知のことであるとも述べています。
PCIは頻用される手技であるだけに例会では活発なディスカッションがなされました。ブラインド性を高める試験方法も話題になりました。この試験の追跡期間は6週間と短いのですが、血行改善の影響やステントの長期耐容性の点から、早期の評価はPCI群には有利であったと考えられます。

薬剤師 寺岡章雄