例会報告:「私的EBM概論」のまとめ (NEWS No.510 p03)

「根拠に基づいた医療は、直感・系統的でない臨床経験や病態生理学的合理付けを、臨床判断の十分な根拠としては重要視しない。そして、臨床研究からの根拠の検証を重要視する」。これはEBM working groupの主要メンバーGordon Guyatt博士が述べられた、“EBM”の基本的な方向性を定めている極めて重要な部分です(JAMA.1992; 268: 2420-25)。“EBM”では疫学的データを重要視し、医師個人の直感や臨床経験、分子生物学的メカニズムなどは重要視しないと明確に述べられています。岡山大学・津田敏秀先生は、医学的根拠に関して、主に「直感派」・「メカニズム派」・「数量化派」にわけて説明されていましたが、“EBM”の世界では「数量化派」の医学的根拠が重要視されているのです。

しかしながら、 “EBM”では分子レベルのメカニズムを重要視する機械論的医学とは異なり、特定病因論を想定していません。むしろ“EBM”は“確率論的病因論”といえる医学体系です。“EBM”において確率論的に「確からしい」と示せた事柄に関しては、分子レベルのメカニズムは一旦蚊帳の外に置いておいても問題ないという立場なのです。日本で主流であるメカニズム派の医師たちにとっては、メカニズムをブラックボックスにしまいこむことなど受け入れにくいでしょうから、“EBM”の本質的概念がいまだに日本で浸透していないことは当然のことなのかもしれません。

ですが、“EBM”が欧米で急速に発展してきた要因としては、そもそも“EBM”が臨床応用される目的で誕生してきたということがあります。実際に“EBM”の発展により、エビデンスに基づく医療の標準化・ガイドライン化による普遍的医療の普及をも可能にすると考えられています。とはいえ、私自身は“EBM”を手放しに受け入れ、臨床に応用することには反対です。「患者の個性を重視すべき」だという批判ももっともですが、それ以上に「“エビデンス”が製薬業界に都合の良いように造られている」からです。製薬メーカーに都合の悪い結果は論文として発表されず、その真実を公表しようとする人間には圧力がかかり社会的に抹殺されるということです。さらにビッグファーマ・メガファーマは豊富な資金力で各国政府にロビー活動を積極的に行っており、自分たちに有利な政策決定をさせています。

私は因果的推論において最も重要なことは、疫学的解析結果と病態生理学的メカニズムが一致していることであると考えます。例えば製薬メーカーが出してきた結果と病態生理学的メカニズムが一致しなかった場合、その結果を疑ってかかるべきです。そして基礎科学に立ち返って考えること、あるいはin vivoでの結果やin vitroでの結果も踏まえた上で総合的に判断すべきであると思います。

“EBM”の提唱者であるGuyatt博士も「医学的(疫学的)データのみからでは“いかに行動すべきか”という規範的な価値判断を導き出すことはできない」という“EBM”の限界点を理解されているのです。その限界点を出発点として考えていくべきなのではないでしょうか??

大阪大学大学院博士課程3年 松本 有史