薬のコラム 税と製薬・医療機器企業(NEWS No.510 p08)

まだ国内製薬企業の売上が良かった頃、外資系企業の薬を使わないようにしている医師がいました。その医師は外資が蔓延れば日本が衰退すると考えていると聞きましたが、国内製薬企業のMRから外国製は悪いと洗脳されているのだろうと思いました。製薬企業の作る薬の善し悪しを考えることはあっても企業精神について私は当時考えたことがありませんでした。
「パラダイス文書」からタックスヘイブン(租税回避地)の英領バミューダ諸島に登記された医療機器メーカーから各国の医師や病院がストックオプションや未公開株を取得したことを示す資料が見つかったと新聞報道がありました。治験に関わっていた仙台市の医師と病院がその製品メーカーである「バイオセンサーズ・インターナショナル・グループ」から未公開株の提供を受け、中には1億円超えの売却益を得ていた医師もいたと記事にありました。問題となった治験は01年から03年のバイオ社の血管治療用の器具ステントで06年に国の承認を受けています。ストックオプションとは、会社の役員や従業員が、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で会社の株式を買うことができる権利をさします。本来、会社の役員や従業員が会社の価値を高めるような働きをすることで株価上昇分の報酬が得られる仕組みです。人の命を守る大事な治験を株価上昇という私利目的に行われ、認可された機器は安全だとは思えません。日本の医療は税金や社会保障負担に支えられています。製薬企業や医療機器メーカーは税から逃げることは許されません。
バイオ社はタックスヘイブン(租税回避地)の英領バミューダ諸島で登記され、本社がシンガポールにあります。血管治療に使う器具などを開発しており2005~16年にシンガポールで上場しています。シンガポールは法人税が安く法人登記から3年間は法人税優遇措置があります。バイオ社はできる限り税は払わない主義の会社であることがわかります。多国籍企業にとって節税が大きな課題となっています。優秀な税理士や公認会計士を雇い税務戦略に注力しています。医薬品業界も多国籍企業が多く、2016年の米国のファイザーとアイルランドのアラガンのM&A(合併・買収)撤回の騒動も税務戦略によるものです。小さなアラガンがファイザーを買収すると聞いて逆ではないかと思いましたがアイルランドの外資に対する安い法人税を利用しようとしたファイザーの節税対策だったことを後から知りました。この策略は米国財務省のM&Aに歯止めをかける新規制により阻止され、結局M&Aは成立しなかった。1錠42239.6円の高額なC型肝炎薬、ソバルディのギリアド・サイエンシズ社も税率の低い国にオフィスを構えることで、米国への納税を極小化しています。
日本の税制はわかりにくく平成元年と平成29年を比較して租税負担率は27.7%→25.1%と軽くなっていますが社会保障負担率が10.2%→17.4%と国民負担率は37.9%→42.5%です。復興税に至っては、個人所得税ではH49年まで納税義務があるが法人は3年のところ2年に短縮されました。皆保険制度をもつ日本は医薬品・機器メーカーから美味しい市場として見られています。過去最大の2016年度債務超過548兆円、世界を舞台に税から逃げ回る企業から応分負担をお願いしたい。

薬剤師 小林