くすりのコラム 復活したクロロキン(NEWS No.511 p08)

薬局では初めて来局した患者さんにはアンケートで服用中の薬を尋ねます。「プラケニル」という聞いたことのない薬がアンケートに書いてありました。薬の辞書で調べると、妊娠可能な年齢の女性に多いエリテマトーデス治療薬で一般名称は「ヒドロキシクロロキン」とありました。クロロキン!このような薬が販売されていたことを知らず、驚いて周りにいた若い同僚らに知っていたか尋ねました。こちらの驚きとは裏腹にみんな新薬だと思っているようで「クロロキンといえば網膜症!薬害忘れたの?」と言っても何を言われているのか理解できていない様子でした。
中学3年を対象に薬害教育教材として使われている「薬害を学ぼう・厚生労働省」ではクロロキンによる網膜症の欄に[1959年~1975年頃マラリアの治療のため開発されたクロロキンという薬を使った人に目がみえにくくなるなどの症状が起こった。]と書かれています。日本では腎疾患の尿蛋白の改善や抗てんかん薬補助薬として使われました。クロロキン網膜症は「見えにくくなる」のではなく失明や視野欠損、視力低下といった失明に近い状態となった人が1000人以上でた薬害です。服用中止してから網膜症が進行してしまった人もいます。パンフレット「薬害を学ぼう・厚生労働省」は全国薬害被害者団体連絡協議会が、長年にわたり厚労省・文科省に要望してやっと作られた教育教材です。娘が学校からこのパンフレットを持って帰ってきた時は、国がこのようなパンフレットを自ら作成するはずがなく、おそらく被害者団体の交渉の末にできたのだろうと思いました。大学で薬学教育を受け、薬剤師として働いている同僚たちは特別不勉強な薬剤師ではありません。多くの薬剤師は大学教育で十分な薬害教育を受けていないようにみえます。
プラケニル添付文書では薬害について触れられることはありません。
日本眼科学会「ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き」では米国で60年間臨床使用の中で適正使用に関する研究が続けられておりと書かれています。問題となる網膜障害(ヒドロキシクロロキン網膜症)は,発現は「まれ」であるものの本剤を使用して いる患者に一定の割合でみられる「副作用」と紹介されています。60年も臨床利用して「クロロキンおよびヒドロキシクロロキン網膜症のスクリーニングに関する改訂勧告」Ophthalmolgy.2011 Feb;118(2):415-22. が書かれたのは2011年です。添付文書では累積投与量が200 gを超える患者,肝機能障害患者又 は腎機能障害患者,視力障害のある患者,高齢者では, 網膜障害などの眼障害のリスクが高いことから,より 頻回に眼科検査を実施することが望ましいとされています。薬害を知らずに新薬だと思い込んで添付文書を読む薬剤師はクロロキンと同様の注意を払うべきだと読み取れるのか不安になります。医療従事者の認識不足から再びクロロキン網膜症で苦しむ人が出たとき、薬害ではなく副作用または医療過誤として扱われるでしょう。安全性軽視の指導しか行わない薬事行政や製薬企業の不十分な情報提供、真摯に薬害教育に取り組まない大学の姿勢が医療従事者の認識不足を生み薬害の土壌を作っていることを認識しなければいけません。

薬剤師 小林