進行の速い福島の甲状腺がんー本格検査1回目の分析より(NEWS No.514 p05)

先行検査(1巡目 平成23、24、25年度)に引き続く、本格検査1回目(2巡目 平成26、27年度)の甲状腺がん症例について検討した。この検査で「がんないし悪性疑い」と判定されたのは、平成29年12月31日時点で71例である。そのうち先行検査でA1と判定されていたのは33例、A2の判定からは32例、Bの判定は5例である。

各判定群のがん発生率を、国立がんセンターの全国平均と比較した発生率比が、A1群17.5倍(12.0-24.5)、A2群17.9倍(12.2-25.2)、B群243.5倍(78.9-568.3)との異常多発であることはニュース499号で報告した。
A1判定は、最新の精密な超音波機器でも「結節やのう胞を認めない(つまり異常なし)」とされた集団である。この集団から発生した「がんないし悪性疑い」とされた33例を分析した。
病気(がん)の発生、進展、発見・検出、発症についてはモデル化されている。(Walter,S.D Am J Epidemiol 1984)

正常な状態から、何らかの原因(放射線被ばくも含む)により細胞にがん化(生物学的発症)が起きる(T1)が、しばらくは周囲に悪影響なく症状もない(無症候性非侵襲性)。進展のある段階から検査による検出が可能になる(T2)。さらに進展した段階で、周囲に影響を与えながらも症状のみられない(無症候性侵襲性)時期(T3)となり、そのまま進展すると、ついに悪影響のみられる症状が出現(症候性侵襲性)、臨床診断され治療(T4)となる。
病気(がん)の生物学的発症T1の確定(原発事故の前か後か)は、現実には不可能である。何らかの異常が検査により検出される(T2)と、そこで病気の可能性が認識されるが、その時期や内容は検査の質(検査機器の精度や感度など)に影響を受ける。臨床症状が現れる(T4)までは症状はなく自覚もない、いわゆる潜在がんの状態で、T2からT4までの期間を「検出可能な前臨床段階(Detectable Pre-clinical Phase)」という。その期間が長いほど良性のものといわれ、甲状腺がんはその代表的なものとされてきた。
福島の甲状腺検査の判定基準では、A1判定は検出されないのでT2以前、有所見のA2判定はT2以降となり、B判定はさらに進展したものと仮定された基準となっている。C判定と、B判定の中にはT3を超えるものがあると考えられる。

C     直ちに二次検査を要する

福島で甲状腺がんは以下のように発見されている。

先行検査でA1と判定された集団から、本格検査で「がんならびに悪性疑い」とされた33例について、先行検査のどの時点でA1と判定されていたかが判れば、がんの進展を簡単に検討することができる。しかしデータは公開されておらず、ここでは検討委員会の報告から推測せざるを得ない。
先行検査では23年度13市町村、24年度12市町村、25年度34市町村と3年間で行われ、本格検査1回目は、26年度の1年間で25市町村を、27年度に34市町村が行われた。そのため13,12市町村のがん発生52例の先行、本格検査の間隔は異なっているため、集団としてほぼ均一である34市町村の25年度先行検査と27年度本格検査での発生状況について検討した。

34市町村27年度の「がんならびに悪性疑い」19例を、全体71例の判定別発生割合に従うと仮定して、25年度の各判定数で推計すると、A1判定が7例、A2判定が10例、B判定が2例となる。このA1からの7例のがんは、25年度において高精度の超音波検査でも検知できなかった(T2以前)ものが、26年度を挟んだ期間の後に、手術を要する(結果はすべて悪性と確定)臨床がん(T4)となっている。先行、本格両検査の間隔のどこかで検診により検出可能となるT2が存在することになるので、これらのがんでは「検出可能な前臨床段階(Detectable Pre-clinical Phase)」、つまりT2―T4は最短で1年未満、長くても3年以内という短期間となる。
このように、福島県の本格検査1回目で新たに発見されているがんは、進行が穏やかで良性とされてきた従来の甲状腺がんとは異なり、極めて進行の速い悪性度の高いものである。本格検査での異常多発の背景には、がんの進行の速さが関係し、原因として放射線誘発性による特徴であることも否定できない。
福島県民および近隣の放射能汚染地域の健診、医療体制の拡充、さらなる究明が必要である。

入江診療所 入江