フィリピンの貧困地区にある未就学児通園施設AKCDF Preschool Learning Centerの入園児健診のまとめ(続報)―育てにくさに対する保護者と教師の認識の違いについて ―EBMの発展をめざすシンポジウム2018報告①(NEWS No.518 p04)

今年もシンポジウムにて発表させていただく機会を頂きありがとうございました。医問研ニュース紙面でも上記タイトルの発表内容についてご紹介させていただきます。

AKCDF preschool leaning centerは、フィリピンのマニラ首都圏の北西部マラボン市のイーストリバーサイドと呼ばれる貧困地区にある未就学児が通うpreschoolです。1988年、フロールデリサ・ガランさんによって設立されました。設立当時はコミュニティの住人の生活は貧しく、その子供たちの栄養と健康状態は悪く、教育を受ける権利も保証されていない状況でした。医療問題研究会による医療協力(健診)は1992年に始まり、毎年の健診を通して現地の状況や要望を把握し、どのような協力が可能であり望ましいかを探りながら継続されてきました。今までに実施した健診により、フィリピンでは保護者が発達に様々な心配を感じていることを把握していました。しかし、発達の心配だけでなく、育てにくさに対する保護者や教師の認識について調査した報告は今までにありません。そこで今回、育てにくさを含む発達の心配に対する保護者と教師の認識について健診を通した調査を行いました。
結果、保護者は教師よりも多く心配を感じている傾向がありました。保護者は注意散漫であることと視力聴力の低下を混同している可能性があると考えられました。また、AKCDFスタッフは保護者が育てにくさを含めた様々な心配を感じていることを認識できていなかったこともわかりました。教師が保護者の心配を認識すること、適切に相談にのることができること、教師に対する教育支援が必要であると考えられました。
保護者と教師では心配の内容が違うということも明らかとなりました。例えば教師は他害を心配していましたが、他害を心配している保護者は0%でした。家庭で虐待されている児が園で暴力をふるっているケースがあり、保護者は園での子供の他害という問題に気づいていないとのことでした。保護者と教師の認識の違いは、二次障害につながる可能性もあり、それぞれの認識の違いを知ることは適切なかかわりをするためにも非常に重要であると考えられました。
保護者の発達の有無に影響を及ぼす因子は、やせ・肥満であること、第一子であること、自宅分娩の3つでした。また、経済状況が悪い・自宅分娩の場合、母子手帳を持っていない割合が多く、貧困が自宅分娩や母子手帳の有無につながっていることも明らかとなりました。
今回明らかになった結果から、発達の心配や育てにくさに対し情報や教育を提供することは発達の心配や育てにくさにかかわる問題の早期発見・早期支援のためにも重要であることが示唆されました。今後は、保護者や教師に情報や教育を提供する支援としてどのような支援が望ましいかを検討していく予定です。

神戸大学大学院保健学研究科 山本