EBM外しを象徴する「条件付き早期承認制度」の「法制化」に反対をーEBMの発展をめざすシンポジウム2018報告③(NEWS No.518 p06)

シンポジウムでは医薬品承認とEBMをめぐり広範囲にわたる発表をしました。ここでは切迫した課題となっている「条件付き早期承認制度」の来春通常国会における法制化(薬機法)阻止に焦点を絞ります。

「条件付き早期承認制度」は、医療関係者に知られないままに「革新的医薬品創出のための官民対話」で準備が進められ、国会審議にかけられることなく2017年10月20日、厚労省の「課長通知」で即日実施されました。「医薬品産業強化総合戦略」(厚労省)がめざす「薬事規制改革等を通じたコスト低減と効率性向上」の具体化です。

これまで医薬品はランダム化比較臨床試験(RCT)などの介入試験で有効性安全性を実証して販売承認するのがgold standard でした。「条件付き早期承認制度」は、介入試験でなく「リアルワールドデータ」(RWD、診療情報データ)を用いた観察研究での確認でよいとする、世界ではじめての制度です。他にも適用する疾患の限定があいまいなこと、治療薬でなく予防薬も対象とするなど多くの問題があります。

厚労省は2014年に再生医療等製品で世界に先駆けて「条件及び期限付き承認制度」を創設しました。仮承認で市販後期限内に有効性安全性を介入試験で実証し本承認となる制度です。ところが第1号製品「ハートシート」が有効性安全性実証の見込みが立たない状況にあり、医薬品の「条件付き早期承認制度」ではこの有効性安全性実証を取り払い、観察研究による確認でよいとしたのです。制度発足に当たり加藤厚労相(当時)は、RWD利活用などによる研究開発と薬事規制環境整備により、日本市場を低コストで効率的な創薬ができる「創薬大国」にしたいと語っています。

RWDをRCTに替えて用いられないかは欧米でも検討が始まったばかりです。レジストリーなどRWDは標準化されておらず、RCTで評価の指標とする項目の記録がない場合が多いのです。雑多なRWDからゆがみなく比較群をとりだせるかについても方法論的な検討が必要です。米国FDAは30のRCTで得られたエビデンスについてRWDを用いる方法で再現できるか、2020年を目標に検討中です。

制度改悪には患者の新薬への早期アクセスがしばしば口実とされますが、患者数が少なく企業ベースにも乗らない医薬品は、承認に必要なエビデンスレベルの切下げでなく、厚労省研究班が治験薬として患者に一括供給してきた熱帯病治療薬の例など「救済策」を主にする対処もあるのです。

「条件付き早期承認制度」は製薬企業の強い要望で創設されましたが、製薬企業は恒常的な制度とするため法制化を引き続き要望し、現在厚生科学審議会制度部会で、来春予定されている薬機法改正にこの制度を織り込む検討が進められています。

薬剤師 寺岡章雄