くすりのコラム HPVワクチンと感染率(NEWS No.519 p09)

2018年10月に奇妙な新聞報道がありました。論文をどう読むとこのような記事になるのか謎です。

新潟大学の元論文ではHPV16/18についてワクチン非接種群10人・ワクチン接種群3人と書いていますが、発がん性ハイリスクHPV感染者として次のように書いています。「新潟大医学部の榎本隆之教授(産科婦人科学)らの研究グループは9日までに、子宮頸(けい)がんワクチンの接種者と未接種者で、発がん性の高いタイプのウイルス感染率を比較した結果、ワクチン接種で感染を予防できる確率は90%以上で、初回性交前に接種した場合は予防効果がさらに高くなるとの研究成果を明らかにした。…ワクチンを接種しなかった459人のうち、10人(2.2%)が発がん性の高いウイルスに感染していたのに対し、接種した1355人で感染したのは3人(0.2%)。感染を予防できた確率を示すワクチン有効率は91.9%だった。」

ハイリスクHPVは16・18・31・33・35・39・45・51・52・56・58・59・68とされています。「HPV感染と子宮頸部発がんに関するコホート研究」では細胞診がLSILかつ組織診にてCIN1またはCIN2と確認された患者を4ヶ月ごとにフォローアップし、CIN3の進展に関するデータを集めています。CIN3への進展リスクについて型との関連が報告されています。ハイリスク型は16/18型だけではないのです。

米国国立衛生研究所(NIH)が設立したヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)が健康な人のヒトパピローマウイルス(HPV)群の構成を報告しています。約150ものHPV型を示した系統樹、解析結果には分類ができていないものも報告されていました。既知の型にこだわった研究は開発した検査キットの使用が有効であることを示す目的であったり、HPVワクチンによって16・18型の感染が減っていることを示したいという商業目的が見えます。未知のHPVに関する研究や記事、論文をみつけることはできません。医療研究は商業ベースのものしか注目されないようです。

医療で語られる「ヒト」ではなく畜産学から見た「牛」パピローマウイルスでは新型が出た騒動が14年ほど前にありました。動物衛生研究所のHPでは、北海道のある牧場で乳牛の8割に牛の難治性牛乳頭腫症が現れ、病変部位からゲノムの単離、全ゲノムの構造解析を経て新型と認められたことが書かれています。新しい遺伝子型と定義されるには長い道のりが必要だったようです。「新型パピローマウイルスとその関連疾患に関する最新の知見」ではパピローマウイルスは比較的組み換えの少ない安定なゲノムをもつため、このような新型が発見されたのは昔からあったものが新たに存在が確認されたのではないかと考察されています。ウイルスもその多様性のバランスが変われば増減する型がでてくるのは容易に理解できます。「牛」パピローマウイルスは広い視野で考察されている一方で、「ヒト」パピローマウイルスは利益相反情報で溢れ、どんどんその全体像からかけ離れています。

薬剤師 小林