福島県での急性心6疾患の年齢調整死亡率の増加について(NEWS No.520 p06)

環境省の祖父江報告では、福島県の循環器疾患全体(ICD10のI00~I99)の年齢調整死亡率を求めて、減少傾向にあるとして、循環器疾患死亡の増加を否定している。
急性心疾患死亡が様々な疾患名で診断されること、都道府県ごとに傾向が大きくことなることから6疾患としてまとめて分析すべきことを指摘してきた。以下に図示したように、東京、千葉、神奈川、愛知、福島、群馬の各都県が6疾患の構成比率や増加傾向にある疾患がバラバラになっている。

急性心6疾患の死亡数の推移

虚血性心疾患で発作を起こした場合は救急搬送され、心カテーテルが実施され、血栓の融解やバルーンやステントによる冠動脈の拡張により救命率が改善している。この状況下で、発作発生直後に心停止をきたし、病院搬送後の心拍動再開がみられず死亡となるケースが相対的に増えている。この場合発作後の死亡までの時間が短く、心電図での変化や剖検での梗塞巣の所見が形成されないことが多い。このため東京医務院では虚血性心疾患の診断名を用いるとし、「虚血性心不全」を使うところもあるとしている。死亡統計からは「その他の心疾患」や「不整脈・伝導障害」「突然死」「心筋梗塞」と都道府県単位でばらつきが発生していることになる。
しかし、6疾患を合計した数と傾向は全都道府県で類似しており、6疾患で急性心疾患の動向を考察することの妥当性を示していると考えた。
祖父江報告は、循環器疾患全体を対象にしている点で、1疾患による偏りを免れているが、突然死を除いている点と脳血管疾患やリウマチ性疾患や心筋症など放射線障害との関連性が考えにくい死因を含む点で不十分である。
さらに、致命的な問題は、福島県だけの現象傾向だけで増加していないと結論づけている点である。循環器疾患(特に急性心疾患)死亡の減少は全国的な傾向であり、全国的な減少と比較して、福島県の動向を評価しなければならない。
以上の2点を踏まえて、急性心6疾患として、急性心筋梗塞(I21~I229、その他の虚血性心疾患(I20、I24~I25)、不整脈及び伝導障害(I44~I49)、心不全(I50)、その他の心疾患(I01~I02、I27、I30~I33、I40、I51)、老衰、乳幼児突然死症候群以外の突然死(R54、R95以外のR00~R99)を死因とする年齢別死亡率の数値をモデル人口に当てはめて、急性心6疾患の年齢調整死亡率を算出した。
2006年~2016年までの、全国の急性心6疾患の年齢調整死亡率の動向と福島の動向を分析し、2010以前と2011年以後をトレンド解析した。
結果
2006年から2010年までは福島県の急性心6疾患の年齢調整死亡率は全国の年齢調整死亡率+7程度で平行して、しかも増減まで連動して推移しています。

2011年以降の福島の急性心6疾患の年齢調整死亡率も全国+7で推移すると推定した値を一点鎖線で表示した。さらに、この値に対して、95%信頼区間上限を設定(破線で表示)した。すると、実際の福島の急性心6疾患の年齢調整死亡率は2012年、2013年、2014年に予測値を有意に上回っていた。
福島県で急性心6疾患の年齢調整死亡率の上昇は、東日本大震災によるストレスや原発事故による放射線障害が要因となっている可能性が考えられた。

保健所 森国悦